石村和彦社長が2008年に“12人抜き”で日本最大手のガラスメーカーのトップに就任して以来、矢継ぎ早に改革が行われた。リーマンショックの大不況からもいち早く抜け出してV字回復を果たし、さらには20年に売上高2兆円を目標とした成長戦略も打ち出した。石村社長は何を変えたか。彼が打ち出した“蓄(蓄え)”のマネジメントとは何か。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)
時計の針を半年ほど戻した、今年2月10日、石村和彦社長は経営ビジョンを発表し、2020年に売上高2兆円を達成するという目標を掲げた。09年は1兆1482億円だから、およそ2倍、年率6~7%成長を10年間続けるという意欲的な挑戦だ。それでも、石村社長には、自信に溢れた笑みが広がっていた。
石村社長が08年3月にトップに就いた旭硝子は、その年9月のリーマンショックを契機とする世界的大不況の影響をもろに受け、09年1~3月期は60億円の営業赤字に転落した(右図参照)。「いきなり崖から突き落とされたようだった」(石村社長)。
だが、09年央から回復基調に入り、10年1~3月期の営業利益は539億円、売上高営業利益率は17.1%に上る。素材業界のなかでは群を抜いて高い収益性を取り戻した。さらには、「12年までの中期経営計画の中で、業績は過去最高を更新する」(石村社長)と勢いに乗る。
旭硝子の収益構造を説明しておくと、09年12月期の売り上げ構成比は、ガラス事業(建築向けや自動車向けなど)が46%、電子・ディスプレイ事業が32%、化学事業が20%となっているが、収益の柱は電子・ディスプレイ事業だ。同事業の売上高営業利益率は34.4%にも上る。リーマンショック以前の07年12月期では同事業が営業利益の6割を稼ぎ出していた。
とりわけ収益性が高いのは液晶ディスプレイ向けガラスである。上図で示したように、米コーニングが世界シェアの5割以上を持ち、旭硝子は第2位。日本電気硝子を含めた上位3社による寡占市場となっている。
旭硝子の業績回復の牽引役となったのも、この液晶ガラスであったことは言うまでもない。だが、それを支えたのは組織内の内実強化だ。石村社長が打ち出した“蓄”のマネジメントだった。