味の素は来年4月、医薬品事業を分社化し、傘下の味の素ファルマと味の素メディカを統合して、味の素製薬を設立すると発表した。
あまり知られていないが、味の素グループの医薬品事業の売上高は昨年度で約857億円もあり、業界20位の存在だ。主力商品はアミノ酸の応用からスタートした輸液や医療用食品で、これに糖尿病や骨粗鬆症向け医薬品など、消化器疾患領域と代謝性疾患領域に特化した医薬品を供給している。
2002年には鈴与グループから輸液に強い清水製薬などを買収し、今年8月には200億円を投じてプロクター・アンド・ギャンブルから骨粗鬆症向け医薬品の特許や商標を取得。地道に医薬品事業を強化してきた。
今回の新会社設立に、「食品業界勝ち組の味の素が、医薬品業界でM&Aに打って出るのではないか」との観測が早くも流れている。
というのも、医薬品業界では05年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併してアステラス製薬、三共と第一製薬が共同持ち株会社設立で第一三共が誕生。大手同士の合併はほぼ一巡しており、業界再編の焦点は準大手や中堅クラスに移ると見られている。巨額の研究開発費確保と海外展開のためには、準大手・中堅同士でくっつくか、あるいは国内外の大手にのみ込まれるしかない。
そこで注目されるのが、食品大手による医薬品メーカーの買収。すでに、昨年には協和発酵工業がキリンホールディングスに買収され、傘下のキリンファーマと合併して協和発酵キリン(業界11位)となった。同業大手にのみ込まれるより、“異業種”大手と組んで主導権を維持する戦略だ。「5年以内に医薬品売上高1000億円を目指す」味の素は医薬品メーカーには魅力的存在だ。
キリンに続いて味の素が医薬品業界の再編に参戦すれば、業界地図は大きく塗り替わることになりそうだ。医薬品業界を見渡せば、明治ホールディングスが業界16位、JTが27位、ヤクルト本社が三六位につけている。これらの企業はいずれも食品業界の勝ち組であり、医薬品業界における合従連衡(がっしょうれんこう)の目玉ともなる。
少子高齢化と安売り(薬価基準引き下げ)による国内市場縮小、グローバル再編の嵐は食品、医薬品業界に共通している。異業種再編はキリン─協和発酵に限ったことではない。味の素の次の一手次第で、再び医薬品再編が加速することになろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 小出康成)