「円高はデフレを加速するので問題だ」と言われることがある。はたして、そうだろうか?

 原理的には、そうしたことはありうる。いうまでもなく、円高になれば円表示の輸入価格は低下する。だから、他の条件が同じなら、国内物価に低下圧力が加わるだろう。しかし、事態はそれほど単純ではない。為替レートの変化が消費者物価に伝わるまでには、さまざまな条件が関係するからだ。また、消費者物価は、為替レート以外のさまざまな要因によって影響されるからである。

原油価格などの変化が
輸入物価に大きな影響を与える

 最初に、為替レートと輸入物価の相関を見よう。

 為替レートが輸入物価に影響を与えることは明らかだが、輸入物価に影響を与えるものは、為替レートだけではない。原油、資源、食料などの国際価格の変化が影響する。また、技術革新によるIT関連財の価格低下も影響する。

 実際のデータを見ると、【図表1】に示すとおりだ。ここでは、為替レートとして名目実効為替レートをとっている。

 為替レートと輸入物価の間には、たしかに負の相関が見られる。具体的には、つぎのとおりだ。

①1995年春頃から98年夏頃まで、円安が進行。輸入物価は上昇した。

②1998年夏頃から2000年末頃まで、円高が進行。輸入物価は99年末頃までは若干下落。

③2001年初め頃から2005年頃まで、為替レートは大きく変わらず。輸入物価も04年初め頃までは大きく変わらず。

④2005年頃から2007年夏まで、かなり顕著な円安が進行。輸入物価は08年夏までかなり顕著に上昇。

⑤為替レートは2007年夏以降、急激な円高。輸入物価は2008年夏以降急落。

 ただし、詳しく見ると、負の相関から外れた動きも見られる。