税務署に狙われると「8割超が追徴課税」、どんな人が狙われる?
人生100年時代、お金を増やすより、守る意識のほうが大切です。相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、相続専門税理士の橘慶太氏。相続の相談実績は5000人を超えている。大増税改革と言われている「相続贈与一体化」に完全対応の『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】 相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』を出版する。遺言書、相続税、贈与税、不動産、税務調査、各種手続という観点から、相続のリアルをあますところなく伝えている。2024年から贈与税の新ルールが適用されるが、その際の注意点を聞いた。

税務署に狙われると「8割超が追徴課税」、どんな人が狙われる?Photo: Adobe Stock

税務署に狙われると「8割超が追徴課税」、いったいなぜ?

 私はこれまで30~40件ほど、相続税申告の税務調査に立ち会ってきました。その経験から、「税務調査は世の中の人が考えている以上に厳しい」と断言できます。

 調査官の口調や態度が横柄という意味ではありません。調査官の調査能力が私たちの予想をはるかに上回る精度であるという意味です。

 2022年、相続税の税務調査は8196件、税務調査ほど厳しくない「簡易な接触」が1万5004件。合計2万3200件の調査が行われました。年間の相続税申告は15万858件なので、およそ6件に1件の割合で調査が行われていることになります。

 そして税務調査に選ばれてしまうと、なんと85.8%の人が追徴課税になっています(2022年実績)。税務署は申告期限から5年間、税務調査を行う権限があります。ただ、実務上は、申告書を提出した1年後の夏(7月中頃)か2年後の夏に調査が行われるのが一般的です。

 税務調査で間違いを指摘され追徴課税になれば、罰金的な税金もかかります。納めた税金が少なかった場合は過少申告加算税(5~15%)。そもそも申告すらしていなかった場合は無申告加算税(10~20%)。仮装隠蔽により税金を故意に逃れようとした場合は重加算税(35~40%)と重いペナルティが課せられます。

 さらに、申告期限(相続発生から10か月)から追徴税を納めるまでの利息が年2.4%(2024年現在)も加算されます。ちなみに2022年度の税務調査の統計によれば、追徴課税となった人のうち、14.8%の人に重加算税が課されています。 健全な節税は推奨しますが、財産を隠す行為や、実態と異なる形を装って特例を使う行為は、節税ではなく脱税です。最悪の場合、刑事罰の対象になることもありますので絶対にやめましょう。

 6件に1件と聞いて、皆さんはどう感じますか。私は非常に大きな割合だと感じます。所得税や法人
税等の他の税金であれば、税務調査に選ばれる確率はせいぜい1~2%です。所得税や法人税は毎年納める税金で、かつ、母集団が相続税よりも圧倒的に大きいので、税務調査に選ばれる確率も相対的に低
くなります。

 一方で相続税は亡くなった方ひとりにつき、生涯で一度きり発生する税金です。税務署も「ここで逃してなるものか!」という姿勢で、怪しい人に対しては躊躇なく税務調査を行います。

 ここで皆さんが気になるのは「どのような人が税務調査に選ばれるの?」ということだと思いま
す。税務調査の話をすると、「そんなに大きな財産は無いから、税務調査は心配ありません」と仰
る方が大変多いのですが、その考えは危険です。

注意! こんな人が狙われる!

 近年のトレンドとして、「基礎控除を超えるか超えないかギリギリの方で、相続税申告を行わなかった無申告者」に対する税務調査の件数が非常に伸びています。2022年では、705件の調査が行われ、1件当たりの追徴税額はなんと1570万円です。

 恐ろしいことに、国は、あなたが大体どのくらいの財産を所有しているか把握しています。国税庁には、国税総合管理(KSK)システムという巨大なデータベースがあり、全国民の毎年の確定申告(サラリーマンの場合は給与の源泉徴収票)の情報や、過去にどのくらいの遺産を相続したか等の情報が集約されています。その情報をもとに、「この人はこれくらいの財産を持っているだろう」という理論値を計算します。税務調査に選ばれるのは、KSKシステムが弾き出した理論値と、実際に申告した遺産額に大きな乖離がある方です。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・追加加筆を行ったものです)