「手取りが減る!」と不満爆発の“年収106万円の壁”撤廃、それでも進めるべきと専門家が断言するこれだけの理由写真はイメージです Photo:PIXTA

「年収106万円の壁」の撤廃が検討されていると報じられた。これは、社会保険加入の要件を緩和し、対象者を増やす「適用拡大」につながる変更だ。社会保険料の支払いが発生すれば、手取りが減る。ネガティブに捉える人も少なくないようだ。しかし、それでも筆者は適用拡大を進めるべきだと考える。その理由とは。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)

「年収103万円の壁」に続いて
「106万円の壁」が話題に

 前回の当コラムでは、国民民主党が掲げる「103万円の壁」について取り上げた。年収が103万円を超えると所得税がかかるが、税金は超えた部分にしかかからないため、実は大きな問題ではない。パートタイマーにとって本当に怖い壁は「社会保険料の壁」であると書いたところ、記事の公開直後に、「パート収入106万円の壁、撤廃」のニュースが飛び込んできた。

 ニュースの出所は、厚生労働省。11月15日に開かれる年金部会(社会保障審議会のうち、年金について審議する諮問機関)の検討課題が先行して8日に報道されたようだ。その日以来、テレビ、新聞、SNSで連日103万円、106万円といった「年収の壁」が話題に上っている。もう少し早い時期なら流行語大賞にノミネートされていたかもしれない。

「パート収入の壁」は複雑な仕組みのため、報道を見ていても認識が間違っている部分が多々ある。今回は「パート収入の壁」について、今、最低限知っておくべきことを分かりやすく解説する。

 まずは、図をご覧いただきたい。

社会保険適用拡大筆者作成
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 パートタイマーが社会保険(厚生年金と、健康保険)に加入する要件は現在、主に賃金、勤務先の企業規模、労働時間の3つ。これを全て満たすと社会保険に加入する。

 改正案は、賃金と企業規模の要件を撤廃するというもの。これにより、社会保険加入要件は、「労働時間週20時間以上」のみとなる。
  
 報道では「適用拡大」という言葉が使われているが、これは社会保険加入の要件を緩和し、対象者を増やす(拡大)するという意味だ。

 この1週間、あちらこちらのメディアから「深田さんは適用拡大についてどう思いますか」と質問を受けた。私は自称「手取りスト」。長年、パート収入の手取り計算をしてグラフを作ってきた。壁を越えるのは簡単ではないというパートさんの本音の声も聞いてきた。その上で、適用拡大は良い改正案だと考える。その理由を解説しよう。