ツール・ド・フランスの沿道で悪魔のコスチュームを身にまとって三叉の槍を振りかざす――。“世界でいちばん有名な観客”と言っても過言ではないのが「悪魔おじさん」ことドイツ人のディディ・ゼンフトさん(72)だ。2024年で7回目の来日。そんな悪魔おじさんの日本滞在に密着。日本をこよなく愛す食に無関心なドイツ人がどハマりした「意外すぎる日本人」と「メイドインジャパン」とは?(取材・文/スポーツジャーナリスト 山口和幸)
「悪魔おじさん」って誰?
1分で解説!
「悪魔おじさん」とはいったい何者なのか。
趣向を凝らした「変わりダネ自転車」を作ってツール・ド・フランスのコース脇に持ち込み、選手たちを待ち構えて応援するドイツ人男性。本名はディディ・ゼンフト(72)さん。定年前の職業は自称「自転車デザイナー」だ。悪魔のコスチュームを身にまとい、三叉の槍を持っていることから「悪魔おじさん」の愛称で親しまれている。
ディディさんがツール・ド・フランスに初めて登場したのは1993年。国際中継映像に毎日映り込んでくるので、実況者がイタリア語で「ディアブロ(悪魔)」と呼び始めた。
その4年前からフランスで現地取材を始めていた私が、日本の自転車専門誌に「悪魔おじさん」として紹介したのが日本では初出。その呼称が日本のファンの間で定着した。
ディディさんは70代となった今でこそ、全23日間の長丁場で争われるツール・ド・フランスを途中パスすることもあるが、それまでは全日程を古いキャンピングカーで先回りしながら応援していた。車中泊で夜を明かし、スーパーで買い込んだ食材で三食をまかなう。
世界190カ国、100キー局で全日程がライブ中継されるツール・ド・フランスは、視聴者数が1億人を超える。オートバイに乗って撮影するカメラマンも悪魔を見つけたら必ずフレームインさせる。そのため、毎日のようにレースの一番いいところで出没する悪魔の認知度は選手と同等にまで高まってしまった。
日本でもその知名度と人気ぶりは想像以上に高い。2013年からツール・ド・フランスで活躍した選手たちが来日して走る「ツール・ド・フランスさいたま」が開催されるようになり、ツール・ド・フランス主催者が盛り上げ企画として選手団に悪魔おじさんを帯同させた。
初来日は2016年。以来、コロナ禍による2年の大会中止をはさんで、2024年までに計7回の来日を果たした。
「初めて日本に来たときは大騒動だった。今となってはいい思い出だけどね。羽田空港に到着してしばらくすると警備員たちが走ってきて、背中に背負っていたナップサックの中身を全部チェックされた。金属製の三叉も日本ではかなり面倒なことになったので、来日2回目からは樹脂製の日本仕様にしたよ」
「悪魔おじさん」が衝撃を受けた
「メイドインジャパン」とは?
信じられないことに、ドイツにある自宅から埼玉まで悪魔の衣装のままでやってくる。コスプレイヤーのように会場近くまで普段着で行って、トイレなどで衣装に着替えることはしないということだ。
今回の来日に際しては、着替えはひとつも持っていなかった。