目の前でグーグルを見たからこそ芽生えた「使命感」
トーマツベンチャーサポート株式会社事業統括本部長。公認会計士。1983年生まれ。中学生のとき、脱サラして起業した父親が事業を軌道に乗せるのに苦労している姿を見て、ベンチャーの「参謀」を志す。2006年、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。2010年、トーマツベンチャーサポート株式会社の再立ち上げに参画。従来の公認会計士の枠には収まらない「ベンチャー支援」という活動に対して当初は理解を得られず、社内からは逆風も吹くが、一つひとつ壁を越え、社内外に仲間を増やし、大きく成長するに至った。現在は、「挑戦する人とともに未来をひらく」というビジョンのもと、国内外で奮闘する100名以上のメンバーとともに、ベンチャーだけではなく、大企業、海外企業、政府、自治体などとも協働し、自らのミッションを生きる日々を送っている。起業家の登竜門「モーニングピッチ」発起人でもある
斎藤 2010年ですよね、テラモーターズを立ち上げたのは。ある意味、日本の産業や社会のために、という思いがあって、いまの事業を選ばれたみたいなところがあるんですか?
徳重 そうですね。やっぱり、大企業に変われ、と言うのは難しいと思うんですよね。かといって、僕は、世界の動きを見ているから、あのスピード感とか、リスクテイキングってものすごく大事なわけです。新しい産業、と考えた場合には特に。
それで、なかなか大企業は難しいよねと。中小企業でもないでしょうと、それをやれる役割。ベンチャー企業しかないんですよ。もちろん、僕らも含めてベンチャー企業が、売上10億、20億、30億になって、上場しました、はい、終わりです、みたいなのではダメだと思います。
斎藤 目線を高く持ちつづけないとやれないですね。
徳重 そう。逆に言うと、だからそういう目線の会社をつくらなければいけないという意識が、すごくあるんですよ。それは、アメリカでグーグルを目の前で実際に見たことで、あいつらがいかにすごかったとかを肌で知っているんです。それを知っている自分がやるべきだ、という使命感みたいなものはあります。
斎藤 いま、アジアで戦っていることについてはどうですか?
徳重 なぜ僕がソニー、ホンダのことを好きだったかっていうと、初めてアメリカへ行ったときに、ソニーとかホンダのロゴがアメリカ中にあったんです。純粋に、すごくカッコよかった。いま、東南アジアへ行くと、サムスンかLG、バングラデシュやインドへ行ったら中国の会社ですから。この20年間での日本のブランドの、少なくてもtoCの部分での劣化を感じるわけですよね。
僕の場合は、いいときも知っているので、なんでこんなになっちゃったんだろう、と。だから、あえてアジアで闘うハードメーカーを起業して大変なことをやっているのも、日本人って評価されてるのに、なんでここにないんだ、という思いが強い。
「失敗したらどうするんですか?」と聞く前に、
思いっきり失敗してみる。すると、見える世界が変わる
斎藤 起業したとき、何歳でしたか?
徳重 39歳。最初は順調だったんですけど、ちょうど1年半ぐらい前に、かなり大変だったんで……どうだろうな、感情曲線で表すと、こんな感じでアップダウンしていますね。
斎藤 なるほど。事業が大変だった時期ですね。
徳重 ええ。いまはまた、こうプラスに戻ってるみたいな。やっぱり、かなり凹凸が大きい……。
だから僕が言いたいのは、この落ち込み、マイナスを恐れるな、ということです。若い人によく言うんですけど。このマイナスの深さが熱量、エネルギーに変わると思うんですよ。これってチャレンジとか、無茶をやらないと生まれない。僕なんか、最初は熱量ない普通の人ですから。高校のやつに聞いたら、もう普通の人ですから。でも、僕の強みとしては、1回若いときに大きな失敗をしていることがある。今では、マイナスがあっても、次のプラスがあるっていうのがわかるので、ポジティブに思えるわけですよ。もちろん、そのときは苦しいですよ。だけど、振り返ってみると、あれが次のステージへの「ドア」だっていうのもわかる。少なくとも熱量が蓄積されていると思えば、絶対プラスなんです。
そうすると、チャレンジしない、ということはあり得ないわけですよね。講演すると、若い人たちから、「感銘を受けました」と言われます。でも、その後必ず、「失敗したらどうするんですか?」と聞かれるんです。だけど、20代とか、いくらでも失敗していいわけですよ。振れ幅が個性になるし……。
斎藤 振幅の〈山〉と〈谷〉が原体験につながっていくんですよね。
徳重 その通りです。そうした原体験と価値観の見つけ方を斎藤さんは本で書いてくれているので、ヒントにしてほしいですね。
挑戦し、失敗することが怖くないと思える人生って、すごく楽しいし、強いと思います。大変なことがいろいろ起こっても、自分で生きていける、そんな自信を身につけられますから。
斎藤 今日は、お忙しいところありがとうございました!
次回以降も、さまざまな方に原体験とミッションについて伺っていきます。果たしてどのような「感情曲線」が描かれていくのでしょうか?乞うご期待!(構成:編集部 廣畑達也)