自分を捨てて、
他者の真似をすることの大事さ

──著書には人の真似をすることで、自己流の壁を超えていったエピソードも書かれていますね。

 はい、私は日々、真似をする相手を探しています。相手の優れた技術を身につけるチャンスが得られるだけではなく、自分より優れた相手が苦しみ、もがき、努力している過程を追体験することができる。

 そうやって10人、20人の「型」を真似ていくと、自分の中になかったものが蓄えられ、結果、自分の中になかったものこそが外部からの評価につながるということに気づきました。

──最近はどのような人を真似ているのですか。

 著書には、宮崎さん(宮崎駿監督)が高畑さん(高畑勲監督)のことを20年間、真似し続けてきたことを紹介しました。宮崎さんは、高畑さんの筆跡まで真似ていた。でも最近、さらにその元祖がいるということを知ったのです。

 『未来少年コナン』や『ルパン三世 カリオストロの城』などの作画監督を担当した、アニメーターの大塚康生さんです。宮崎さんをして「大塚さんの線はすごい」と言わしめる日本のアニメを支えた方です。

 先日、大塚さんのお話をうかがいにご自宅を訪ねたときのことです。部屋には、若き日から現在に至るまで、ご自身が描いた作品が整然と並んでいました。整理されたファイルの背表紙の字を見て目を疑いました。なんと高畑さんと宮崎さんの字にそっくりだったのです。高畑さんも宮崎さんも「自分を捨て」、大塚さんを真似ていたのだと気づいたのです。

 そんな大塚さんは、もう85歳なのですが、ニコニコしながら「絵を描くって楽しいよね」とおっしゃるのです。持参したiPadに、『ルパン三世』の絵をサラサラと描いてくれました。

 帰るとき、何度振り返っても、ずっと手を振ってくださいました。こういう人になりたいなと思いましたね。すごくシンプルなことですが、50年後も「映画を作るって楽しいよね」とサラッと言える姿を真似したいし、顧客を見送るときには見えなくなるまで立っていようと思いました。

 自分を捨てて、他者の真似をする。鈴木さんの下を離れた後、一流と呼ばれる多くの人にお会いしましたが、そういう人こそ自分へのこだわりを捨てていました。鈴木さんに教えていただいたことは真実であり、「自分中心の時代を生きる我々にとって、最も必要な指針になるのではないか」と思い、この本を書きました。