新海誠監督の長編アニメーション映画『君の名は。』の勢いが止まらない。8月26日の公開から3週間あまりで観客動員が約700万人、興行収入は91億円を超え、100億円の大台突破も確実視されている。 原作小説は100万部を突破し、ロックバンドRADWINPSの主題歌も音楽チャートを席巻。スタジオジブリ作品とディズニー作品の2強であった長編アニメ映画業界に新風を吹き込んでいる。新海誠監督に、映画大ヒットの要因について話を聞いた。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)

発想のヒントを得るために
私の場合、古典を読む

──興行収入100億円の突破が目前の大ヒットとなっています。今の状況をどう受け止めていますか。

しんかい・まこと
1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で作成した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。以降、『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』を発表。2013年公開の『言の葉の庭』では、ドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭長編アニメーション部門でグランプリ受賞するなど、海外の評価も高い。Photo by Aiko Suzuki

 少し困ったことになったな、と思っています。なぜなら、今回の作品がヒットしているのは「たまたまだ」という感覚が強いからです。若い人たちが求めている巨大な需要のような穴があって、そこにこの作品が良いタイミングでうまく入り込んだ。本当に幸運が重なった結果だと思うのです。

 いつも同じ形の穴が開いているわけではないし、いつも求められているタイミングで作品を出せるわけでもありません。作り手としての技術や実力が急に上がるわけでもないのです。

──さっそく、次回作への期待の声も上がっています。

 もちろん、次回作には挑みたいと思いますし、なるべくたくさんの人に届く作品を作りたいのですが、毎回、同じように期待されたらどうすればいいのかと思っています。実際、急にいろいろな人からの声が届くようになりましたが、うまく消化しきれておりませんし、あまりいろいろなものを見ないようにしているほどです。

──そもそも、新海監督の物語のアイデアはどこから生まれるのでしょうか。

 アイデアの源は、自分自身の中にあるものだと思います。自分が興味あることとか、謎として残っていることとか、それがおそらく中心にあります。

 端的に言えば、人と人とのコミュニケーションの問題です。「どうして人と人というのは、気持ちを通わすことができるのだろうか」、あるいは「気持ちを通わすことができないのだろうか」と。関係が断然されてしまったのに奇跡的につながるシチュエーションがある一方で、それがつながらないままのこともある。