共産主義国の人々から、市場原理を大事にするように諭されるという奇妙な「ねじれ現象」を経験した。
数カ月前、中国の著名経済学者らと議論した際に、先方から「日本銀行のマイナス金利政策などの政策は、市場メカニズムをゆがめているのではないか」との指摘を受けたのだ。
2013年の中国共産党中央委員会第3回全体会議(三中全会)で習近平体制の中国政府は、市場メカニズムを適宜導入しながら経済改革を進めていく方針を決定した。計画経済だけでは適切な資源配分ができない、という反省が背景にある。
昨年の株式市場の暴落時、中国政府は強引な価格安定化策を実施したため、「本当に市場原理を重視しているのか」と疑念を抱く方も多いだろう。確かに、全面的な市場経済への移行にはまだまだかなりの距離がある。しかし、全般的に見れば、地方政府や硬直的な国営大企業に改革を迫る際の“道具”として、市場メカニズムが導入されるケースが増えている。
対照的に、日銀は市場機能を壊す、あるいは、まひさせる方向にまい進している。中央銀行が大胆な金融政策を行えば行うほど、経済を社会主義に向かわせてしまうことが、黒田東彦総裁が率いる日銀の現体制で明らかになったといえるだろう。
その典型が株価指数連動型上場投資信託(ETF)の大規模な購入だ。英国の欧州連合(EU)離脱、Brexitが日本の家計や企業のマインドを悪化させることを防ぐために、購入額を年間6兆円へとほぼ倍増した。とはいえ、これは露骨な株価操作だ。一度増額すると、先行きBrexit問題が世界経済の懸念事項ではなくなっても、株価への打撃が懸念されて減額しづらい点も厄介である。