実写映画に向いている作品、向いていない作品とは
――ちなみに、プロデューサーの立場から見て、映像化に向く原作、向かない原作というものはあるのでしょうか。
須藤 基本的にはどのどんな書籍も可能性はあります。そこは企画者の頭の使い方次第でしょう。
ただ、一般的な全国規模のエンターテインメント映画を作る場合なら、小説じゃなくても、主人公がいて、その主人公が乗り越えていくものがあって、それが大きくなればなるほど、映画やドラマには向いてるでしょう。
『映画 ビリギャル』はいい例です。原作は文芸作品でもマンガでもない。ただ、非常にストーリーとしてわかりやすいんです。偏差値の低い、学年でビリの女の子が、勉強をして慶應大学に入る。そのゴールに到達するまではいろんな紆余曲折があるはずなんです。だから、本そのものがストーリー形式でなくても、映画になる。これこそが企画だと思います。
ほかにも、主人公が刑事、もしくは探偵の場合、事件が解決するまでにいろんな壁にぶつかってそれを乗り越えていく姿が、見ている人たちの共感を呼んで面白くなる。けれど、その主人公がただただPCの前に座って調べるだけで事件が解決しちゃうとドラマにならない。いくら結末が面白くても、途中で敵が出てこないと面白くはならないわけです。それは刑事ドラマでも青春ドラマでもラブストーリーでもすべて同じです。
――実際に書店に行って原作を探すことはありますか?
須藤 ありますよ。僕本屋に行くのが好きなので、必ず1日1回は行ってます。もちろん、最近のベストセラー作品もチェックはしますけど、それらの本は放っておいても誰かが映画にしますよね。それよりは、新書のコーナーや実用書のコーナーに行って、こういう切り口でこういうふうな展開にしたら面白いんじゃないかなとか、こんなストーリーにしたら面白そうだけど、全国公開は難しいかなとか、一人で本を見ながら考えています。
みんなが気付かないところで面白いものが作れればというのは常に持っていますね。
――須藤さんがプロデュースと脚本を手がけた11月公開の映画『ぼくのおじさん』もその中の1作ですか?
監督:山下敦弘/原作: 北 杜夫/脚本: 春山ユキオ(須藤泰司)/出演:松田龍平、大西利空、真木よう子、戸次重幸、寺島しのぶ、宮藤官九郎ほか
ストーリー/小学生のぼく、春山雪男は、「自分のまわりにいる大人について」というテーマの作文を書くことに。そこで、居候中の「おじさん」を題材にすることに決めるのだが、このおじさん、大学の哲学講師でありながら、ぐうたらでいつも万年床、おまけに超貧乏でケチ、ドジで運動神経もゼロ。ある日そんなおじさんにお見合い話が持ちかけられて……。
(c) 1972 北杜夫/新潮社
(c) 2016 「ぼくのおじさん」製作委員会
須藤 実はこの原作は、僕が小さい頃に読んでいたものなんです。僕、超マンガ少年だったんですよ。とにかく発売されているマンガはどんな手段を使っても読んでいた (笑)。それが、たまたま感想文かなにかを書かなければいけなくなって手に取ったのが北杜夫さんの『ぼくのおじさん』だったんです。
今思えば、表紙に和田誠さんのイラストが描かれているからそれにひかれたんでしょうね。で、読んでみたら、意外や意外、マンガよりも笑えるんですよ。こんなに面白いものが世の中にあったのかと。
もちろん、その頃から映画に、と考えていたわけではないんですが、徐々に映画の世界にかかわるようになって、いつかは映画にしたいという思いは抱き続けてきました。