興味を持ったことは全部やらせてみる

 こうして、様々な経験を積む中で、伸行が興味を持ったことは何でもやらせました。意外に思う方もいるかもしれませんが、伸行はプールが大好きで、クロールが大の得意なのです。音楽だって、ピアノ一筋ではありませんでした。まだ伸行が小さかった頃は、プロのピアニストにしようだなんて考えていませんでした。本人がやりたいと思うことは、まずはやらせてみました。

 4歳を迎えた保育園時代に興味を示したのはハーモニカです。耳で一度メロディを聴くと、すぐにハーモニカで吹けるようになるのには、我が子ながら舌を巻きました。

 私が少女時代に習っていた琴にも関心を持ち、「さくら」「ロバさん」「吉野山」など、私が弾く簡単な曲はすぐに覚えて、小さな手で上手に弾いてくれたものです。

 バイオリンは、テレビを観ていた時にたまたま音を聴いて「どんな楽器なの?」と尋ねてきたのがきっかけでした。それからタウンページでバイオリン教室を探して、2年ほど通いました。結果としては、寄り道だったのかもしれませんが、伸行の音楽の感性を磨くうえで、貴重な経験だったと思います。

 様々な音楽に触れる中で、5歳のときに、伸行がピアニストになりたいと思うようになる、大きなきっかけがありました。家族でサイパンに出かけた時のことです。ショッピングモールを歩いていると、どこからかピアノの音色が聞こえてきます。そのことに気づいた伸行が「弾きたい」とねだり始めました。見ると、チェーンで囲まれた柵の中に自動で鍵盤が動くピアノが1台置いてあり、音楽はそこから聞こえてきました。

 「自動演奏のピアノだから弾けないのよ」と伝えましたが、伸行はどうしても「弾きたい」と言います。

 そこで、お店の方にお願いしたところ、快く自動演奏を解除してくださいました。伸行は大喜びで、リチャード・クレイダーマンの「渚のアデリーヌ」を弾き始めました。すると、だんだんと周囲に人が集まってきて、演奏に聴き入っています。まだ小さな子どもが、大人の曲を弾いていたこともあったのでしょう。そして、終わったとたん、「ブラボー!!」「ジーニアス ボーイ」という歓声が周囲から沸き起こり、伸行は抱きしめられたり、キスをされたりしています。伸行は得意満面の笑顔でした。

 それまで、家の中でピアノを演奏して家族に拍手されることはありましたが、一般の、それも多くの聴衆に拍手されたのは初めてのことでした。それは、伸行にとって大きな自信につながりましたし、私から見ても「この子は人を魅了する何かが備わっている」と思う出来事でもありました。