横浜市神奈川区の「大口病院」での連続殺人事件が話題となっているが、病院内で発生する事件やトラブルのなかでも、代表的な問題がモンスターペイシェントやクレーマーの問題だろう。病院の職員に暴力を振るったり、女性職員にストーカー行為を繰り返すなど、明らかに問題のある行為をとる患者も少なくない。このため、最近、多くの大学病院などでは、警察OBによるセキュリティ部門「院内交番」を設置するケースが増えている。そこで、院内交番のパイオニアとして、慈恵医大病院で活躍した元警視庁捜査一課管理官(殺人捜査担当)の横内昭光氏に、過去の事例などを語ってもらった。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
20年以上前に起きた
青物横丁医師射殺事件
その朝、男はバイクを京浜急行線「青物横丁」駅の階段下に置くと、近くのビルの前に座り込み、A医師(当時47歳)が来るのを待った。
紙の手提げ袋の中には、一週間前に手に入れた「トカレフ」を忍ばせている。いつでも発砲できるよう、スライドロックは外した状態だ。
(来た…)
視線の先にA医師が現れた。エスカレーターを昇って行く後姿に続いた。
いったん真横から顔を確認し、再び背後に周り、袋から銃を取り出して撃った。「パーン」発射音が響き渡る。
A医師が転倒したのを見届け、男は無言で逃走した。
病院に搬送されたA医師は、翌日の26日午後、出血多量で死亡した。
A医師は都内の病院の泌尿器科医長だった。
男は事件の2年前、A医師執刀のもとヘルニアの手術を受けた。手術は成功したが、しばらくすると全身に倦怠感等の不快感を覚えるようになったため、「手術の際、手術用具を体内に置き忘れたからだ」と疑いを抱くようになる。
男の訴えを聞いたA医師は、否定しつつも、レントゲン検査を実施。改めて「異常なし」と告げた。だが、その言葉を信じなかった男は「俺はもう死ぬ。だが、その前に復讐してやる」と決意。犯行に及んだ。
男には、精神病による通院歴があった。