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重ねる技術:
「二者択一」の先へ

「新卒」「中途」や「購入」「レンタル」など、不動産と同じように、二者択一が前提となっている市場はたくさんあります。

 特に合理的な人は割り切りたがりで、あいだにあるかもしれない第三の解を排除してしまいがちです。しかし、それは本当の頭のよさではありません。
本当の賢さは、わからないことを許容する力。とことん考え続けて第三の解を導くところにあります。

 たとえばKADOKAWAの川上量生代表取締役社長は、いともたやすく二者択一論を飛び越えます。Youtubeという巨大ベンチャーが急成長しているのを目の当たりにしても、動画サイトでは勝てないと浅い判断はしません。

「よく、リスクが理論的に存在しうるってだけで、やらない人いるじゃないですか。でも、そのリスクが起こる確率を計算したら限りなく0%に近いかもしれない。そしたらやったほうがいいでしょ」と語るとおり、一見適当に見えますが実はかなり緻密に考え抜いています。

「ニコニコ動画」も著作権の問題、マネタイズの問題などリスクは多々ありましたが、あらゆるリスクを議論したうえでサービスを開始しているのです。結果、見事に「ニコニコ動画」を大成功させました。

「できる、できない」の二者択一の先が必ずあるのです。二者択一のあいだの淡い部分にスポットライトを当ててみる。そんな考え方が、新しい価値を生むときに重要になります。

企業の強み・思い:
新しい以外の軸で「いい物件」を紹介したい

「主役はどっち?【部屋より広いバルコニー】」「レトロで涼やか、かつポップ」、いったいどんな物件なんだと、ついつい見てしまうリノベーション物件が集まる東京R不動産。

 今までの平米数と価格を見るサイトとはまったく違ったつくりですが、月間アクセス数は350万を超える、日本でも有数の不動産サイトです。

 東京R不動産を運営する林厚見氏は言います。「安くて合理的な家とともに、一方でちゃんと愛着を持てるものや、美しく創造的なものも普通に選べる『ダブルスタンダード』が当たり前にならないと、文化的に危機的状況を迎えてしまう。でもクリエイティブなものを、同時に合理的・効率的に提供する仕組みをつくる人は、往々にして少ないものです。合理的な人は、クリエイティブなことに興味が薄く、感性豊かな人は仕組みをつくらない。そこにあるコンフリクトを埋めるのが、僕らの役割だと思っています」

 新しいし安全だけど、つまらないタワーマンションが増えていく姿を見ながら、それだけじゃない不動産の持つ価値を伝えたいと思い、物件探しの価値観に一石を投じるメッセージを込めたのが東京R不動産なのです。

生活者の本音:
予算がないから中古なんじゃなくて、
この物件が好きだからという理由で選びたい

 タワーマンションの内覧に行くと真っ先に、「オリンピックまでは価値が上昇するので、とてもお買い得な物件です」と言われます。

 しかし人は、価値が上昇するからというだけで新築物件を購入するのでしょうか?「住んでいて気持ちがいいか」「同じ価値観の人たちが住んでいるのか」などいろいろな軸があるはずです。

「新築」「中古」という価値基準だけではなく、この物件はちょっと使いづらいけど、自分に合っている。そんな基準で住む場所を選びたいという本音がありました。

重なりの発見:
中古ではなく「一点もの」

「中古」という「新築」の対義語で勝負をすると、どうしてもネガティブな印象を払拭しきれず、新築は予算的に無理だから中古にしようという「我慢した感」が出てしまうことが、中古物件の大きな課題でした。

 東京R不動産は、これまで「新築」「中古」という二者択一だった市場に「リノベーション」という新たな選択肢を加えました。今までの物差しとは違った切り口で、中古物件にスポットライトを当てたのです。

「古い」ではなく「一点もの」という独自性を打ち出し、こだわりと価格を両立できる新しいマーケットをつくり出しました。

 予算の問題で中古にするのではなく、「自分の価値観にフィットした個性的な居住空間が欲しいから選ぶ」という選択肢です。

 物件購入者の「中古物件が欲しいのではなく、自分の価値観にフィットした個性的な居住空間が欲しい」という本音と、「新しさや合理性だけではなく、古くても文化的に価値がある不動産の価値を提案したい」という思いが重なり、「リノベーション」という新しい価値観が生まれました。


参考文献
・「『ここにしかないもの』を考えることから"東京の未来"は始まる:東京R不動産・林厚見」、WIRED、2015年9月26日

・「草食系マッキンゼーが営む、面白い不動産屋」、東洋経済オンライン、2013年2月14日配信

・『だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル』(馬場正尊、林厚見、吉里裕也著、ダイヤモンド社)