世界最高峰のヨットレースが、日本ではじめて開催された。11月19日、20日の2日間、福岡市で行われた第35回アメリカズカップの前哨戦である「ワールドシリーズ」だ。2017年6月に英国領バミューダで開催される本大会では、前回優勝の米国「オラクル・チーム・USA」に対して5ヵ国の船が挑戦権を争い、勝ち上がった1艇と米国艇が決勝を戦う。「海のF1」とも呼ばれる迫力のレースを実現するテクノロジーとチームワークの進化を、現地で取材した。

ヨットの大きさは
前回大会より小さい

「アメリカズカップ2017ワールドシリーズ」は、来年の本大会に向けた前哨戦の位置づけで、2015年7月から世界8ヵ国を転戦してきた。そして9ヵ国目の最終戦が日本初開催の福岡大会だった。各大会は海上に設置された2km弱のコースを6艇で2~3回レースし、それを2日間行う(福岡大会では各3レース行った)。シリーズ全体の合計点で1位が2ポイント、2位が1ポイントを本大会に持ち込むことができる。同時にこのシリーズで各チームは、実戦によるチームワークや戦術の確認を行い、来年の本大会に備える。また、世界各地を転戦することで、アメリカズカップの存在を世界中にPRする役目も担っている。

 本大会の決勝で、防衛艇である米国と戦えるのは1艇だけだ。英国、ニュージーランド、スウェーデン、フランス、そして15年ぶりの挑戦となる日本の5ヵ国が、挑戦艇の座を争う。つまり米国艇にとっては、決勝に出ることは決まっているので、それまでのレースは調整や他チームの分析のために出場する意味合いが大きい。

前回チャンピオン「オラクル・チーム・USA」のレース艇。今年のワールドシリーズは、各国ともこの共通デザインのヨットで戦った
Photo by DIAMOND IT & Business

 ワールドシリーズで使用されたヨットは、「AC45F」という専用の船だ。その名の通り全長は45フィート(約13メートル)、船体自体の重量は約1300キログラムと、大きさの割に軽量のヨットで、「カタラマン」(双胴船)の形状をしている。メインの帆はマストに張るシートではなく、カーボンファイバー製の「ウイングセール」という翼が固定で付く。帆の高さは20メートルを超え、これはエアバス社の旅客機「A320」の主翼とほぼ同じ大きさだという。

 ちなみに来年の本大会では、「AC50」とも呼ばれる全長15メートル級、つまり今回よりほんの少し大きい船が使用される予定だ。ただし、同一デザインだったAC45に比べて設計の自由度は広がる。前回2013年のサンフランシスコ大会で使われた「AC72」(72フィート=約22メートル)からすると、かなり小さい。大きい船の迫力をとるか、小さめの船で大会運営の効率をよくするか、この決定にはさまざまな議論があったという。