企業ITのクラウド化がいよいよ本格化してきた。営業やマーケティングのアプリケーションだけでなく、基幹業務も含めた全面的なクラウド移行を表明するグローバル企業も登場している。だがクラウドIT市場は、アマゾンをはじめとした異業種や新興企業も参入し、競争が激化している。そのなかで、創業39年の“ITの老舗”オラクルにとっては大きな勝負の時が来たようだ。年に一度の主催イベントでトップが語った、クラウド戦略の狙いを追った。
10年がかりで全てのコードを
クラウド対応に書き換えた
米国オラクル・コーポレーション(以下:オラクル)は、9月18日~22日、カリフォルニア州サンフランシスコ市内で年間最大のプライベートイベントである「オラクル・オープン・ワールド2016」(以下:OOW)を開催した。
オラクルは、ラリー・エリソン(現経営執行役会長兼CTO)らが1977年に創業して今年で39年の老舗IT企業であり、世界最大手の一角。企業向けのデータベース管理ソフトでの圧倒的な強さを背景に、業務アプリケーションやサーバ機器そのものを開発するハードウェア企業などを次々と買収しながら今日まで成長を続けている。2016会計年度の売上高は370億ドル(約3兆7700億円)、世界145ヵ国に約42万社の顧客を持つ巨大企業である。
そのオラクルが直面する課題が、クラウドコンピューティングへの対応だ。企業のIT投資は、自社でサーバなどのハードやソフトウェアのライセンスを資産として保有する形態から、業務ごとにクラウドサービスの提供者(クラウドベンダー)へ利用したユーザー数や時間に応じて料金を支払う形態へと、大きく転換を始めている。
業務そのものがデジタル情報の集積と加工の中で行われる今日、複雑なコンピュータシステムと大量のデータをすべて企業が保有するのは難しくなっている。クラウドに管理を預けるのは当然の流れだ。ITが所有から利用に変わることで、ビジネス環境の変化など状況に応じたシステムの変更もしやすくなる。
特にここ数年で目立つのは、長い歴史を持つ大企業や情報管理に厳しい金融機関などでもクラウドの採用が進んできていることだ。それに伴い、セールスフォース・ドットコムに代表されるクラウド専業のソフトウェア企業や、アマゾンのように異業種からクラウドのインフラ事業を始めた企業の業績が急拡大しており、オラクルのような従来からのオンプレミス(クラウドでない)システムで動くソフトウェアを主業としてきた企業にとっては、背負うものがない身軽な競争相手に顧客を奪われかねない状況になっている。大手IT企業ですら追いつけないほど、ITの急激な変化が訪れているのは皮肉なことだ。
競争が激化するクラウド市場では出遅れたと言われたオラクルだが、眠っていたわけではなかった。10年かけて、既存のシステムを全てのプログラムを書き換えてクラウドに対応させる作業を完了。現在も売上高の実に13%を研究開発につぎ込んでクラウド化に邁進している。自前のソフト資産をクラウド対応する一方で、クラウドアプリケーションの開発に関しては専業ベンダーを次々と買収して、時間を買う戦術をとった。直近ではクラウドERPの有力企業「ネットスイート」を日本円にして約1兆円で買収すると発表し、IT業界を驚かせた。