仮想通貨ビットコインを支える「ブロックチェーン」が、どのように世界を変えるかを解説した決定版『ブロックチェーン・レボリューション』。その出版にあわせ、同書の第1章「信頼のプロトコル」の一部を公開するシリーズの第5回。
著者は「ブロックチェーンから見えてくる未来」として、象徴的な10の変化を予測する。まずは、そのうちの5つを見ていこう。

 本書ではブロックチェーンが可能にする新たな動きをさまざまな分野から紹介し、それがどのように世界を豊かにするかを見ていきたいと思う。

 豊かさとは、まず第一に生活水準の向上を意味する。そのためには、お金を稼ぐための手段とチャンスが不可欠だ。でも、もちろんそれだけではない。安心、安全、健康、教育、自然環境。自分の生き方を自分で決定し、社会と経済に主体的に参加できることも大切だ。

 人が豊かに生きるために最低限必要なものはいくつかある。財産を安全に保管・移動できる基本的な金融サービスへのアクセス。経済活動に参加するための通信手段や取引ツール。土地や財産の所有権が正当に守られる制度。

 ブロックチェーンなら、すべて実現できる。

 これから紹介する数々のストーリーは、誰もが豊かに暮らせる未来を垣間見せてくれるはずだ。そこにあるのは、個人のプライバシーや安全が守られ、データが誰かのものでなく自分自身のものになる世界。大企業が技術を独占することなく、誰もがテクノロジーの発展に参加できるオープンな世界。そしてグローバルな経済から排除される人がなく、どこにいてもその富の恩恵を受けられる世界である。

 ここで少しだけ、その一端をのぞいてみよう。

本物のシェアリング・エコノミーがやってくる

 最近「シェアリング・エコノミー」という言葉をよく耳にする。空き部屋が借りられるAirbnb(エアビーアンドビー)や、必要なときに車を手配できるUber(ウーバー)、雑用を依頼できる TaskRabbit(タスクラビット)などを指してそう言うらしい。

 でもそういうサービスは、本当の意味での「シェア」ではない。情報を集約することで成り立っているからだ。実際、彼らは「シェアしないこと」によって収益を得ている。たとえばUberは、ドライバー情報を自分のところに集めることで650億ドル規模の会社に成長した。Airbnbは空き部屋情報を一箇所に集め、評価額250億ドルを誇るシリコンバレーの寵児になった。情報を集めて手数料をたっぷりとっているから、それだけの成長を遂げられたのだ。

 この手のサービスが可能になったのは、スマートフォンやGPS、決済システムなどの技術的な条件が整ったからだ。でも今はまだ、完成形ではない。ブロックチェーンはシェアリング業界をふたたびかき乱し、今よりずっと画期的なサービスを登場させるはずだ。

 Airbnbによる集中管理は廃れて、そのかわりに分散されたアプリケーションが主流になるだろう(ブロックチェーンの頭文字「b」をつけて、bAirbnbと呼びたい)。bAirbnbは、各メンバーによって主体的に運営される。部屋を借りたい人が検索条件を入力すると、ブロックチェーン上のデータからそれに合うものが抽出される。取引がうまくいって高い評価が得られれば、それがブロックチェーンに記録されて評判が上がる。誰かに仲介してもらわなくても、データがそれを教えてくれるのだ。
 イーサリアムの考案者ヴィタリック・ブテリンはこう語る。

「たいていの技術は末端の仕事を自動化しようとしますが、ブロックチェーンは中央の仕事を自動化します。タクシー運転手の仕事を奪うのではなく、Uberをなくして運転手が直接仕事をとれるようにするんです」

金融業界に競争とイノベーションが生まれる

 金融業界は経済を支える要だが、そのシステムにはかなり問題がある。

 とにかく巨大で身動きが取りづらく、技術の進化にまったくついていけない。既得権益を守るのに必死で、新しいものを取り入れることに後ろ向きだ。時代遅れの技術を使いつづけ、19世紀につくられたようなルールでいまだに動いている。その業務は矛盾に満ち、時間がかかり、セキュリティの穴も多い。それに情報が不透明すぎる。

 ブロックチェーンは金融サービスを古くさい銀行から解き放ち、業界に競争とイノベーションを取り入れるだろう。利用者にとっては朗報だ。これまでは採算がとれないとかリスクが高いという理由で金融サービスからはじきだされる人が何十億人もいた。でもブロックチェーン時代になれば、誰もがオンラインで買い物をしたり、お金を借りたり、ものを売ったりできるようになる。もう豊かな暮らしをあきらめなくていい。

 既存の金融機関も、その気にさえなればブロックチェーンを活用して進化できる。銀行、証券取引所、保険会社、会計事務所、クレジットカード会社など、あらゆる業務が劇的に改善されるはずだ。みんなで同じ帳簿をシェアすれば、決済に何日もかかるようなことはなくなり、目の前であっという間に取引が完了する。そうすれば何十億という人が助かるし、あらゆる場所で新たな起業家が生まれるだろう。

財産権が確実にデータ化される

 財産権は資本主義のしくみと分かちがたく結びついている。アメリカ独立宣言の前文にある「生命、自由、幸福の追求」という権利は、最初の草稿では「生命、自由、財産の追求」となっていたほどだ。現代の暮らしはそうした思想に支えられているわけだが、それが実際に守られるとは限らない。

 自分のものだった土地を政府の独断で奪われる人が世界には数多くいる。腐った役人がデータを書き換えれば、それで終わりだ。自分の土地だという証拠がないので、ローンも組めず、家も建てられず、ある日とつぜん取り上げられても文句が言えない。これは深刻な事態だ。

 ペルーの経済学者で開発援助の第一人者であるエルナンド・デ・ソトは、財産の所有権がまともに認められないせいで貧困にあえいでいる人が世界各地に5億人いると指摘する。彼はブロックチェーンがその解決策になると考えている。

「ブロックチェーンの核にあるのは、何かの所有権を確実に取引するという考え方です。その対象はお金でも、モノでも、アイデアでもいい。大事なのは単に土地を記録することではなく、そこに関わる権利を記録して、所有権が犯されないようにすることです」

 これからの時代、財産権を守るのは銃や兵士ではなく、テクノロジーの役目だ。データを見れば、所有者は誰の目にも一目瞭然。記録が急に消えることもない。

送金が安く、早く、簡単になる

 暗号通貨の話で必ず言及されるのが、送金の便利さだ。送金は人びとの暮らしに直結する大問題である。

 途上国に流入する資金でもっとも多いのは、政府の援助でもなければ投資資金でもない。外国に住む労働者から家族への個人送金だ。だが国境を越えてお金を送るのは面倒で時間がかかる。いちいち銀行に足を運び、毎回たくさんの書類を書かされて、しかも7%も手数料を取られたりする。もっといいやり方があるはずだ。

 モバイル送金サービスのアブラ社は、ブロックチェーンを使った国際送金ネットワークを開発した。銀行の窓口を介さず、スマートフォンで簡単に現金を送れるシステムだ。これまで送金に1週間かかっていたのがわずか数分程度に短縮され、手数料は7%以上かかっていたのがわずか2%程度ですむ。アブラは今後さらにネットワークを広げ、世界中のATMの数を上回る規模にしたいと目論んでいる。

 送金サービス老舗のウエスタンユニオンが50万の取扱店をつくるのに、150年かかった。アブラはそれを1年で達成するつもりだ。