地方の社会保障、福祉、インフラの未整備はプーチン政権の最重要課題の1つである。日本は積極的に関与すべきだ。日本の経済協力が、ロシアの住民レベルに還元されて、「草の根レベル」で信頼関係を構築することが重要だ。信頼関係は、首脳レベルだけの問題ではないのである。

ガス・パイプラインの敷設は
日本の交渉力を強化する

 今回の合意事項には、事前に話題となっていた「サハリンから日本列島を縦断するガス・パイプライン」や「シベリア鉄道のサハリン、北海道への延伸」は含まれなかった。しかし、これらは日本に大きなメリットがあり、今後の検討事項に含めるべきだ。

 特に、パイプラインの敷設は重要である。一般的にパイプラインは、ロシアのような供給国が圧倒的に有利と考えられている。しかし、この連載で指摘してきたように、供給国がパイプラインを止めたら需要国が困り、供給国が圧倒的に強い政治力を持つという関係は実際には成り立たない。

 供給国は一度パイプラインを建設したら、ガスの売り先を変更できなくなる。ましてや、政治的に対立関係になったとしても、パイプラインを止めることはできない。ロシアのような資源依存の経済構造を持つ国は、パイプラインを止めたら、経済が大打撃を受ける。一方、ガスは他のエネルギーに代替可能であり、多少の資源価格上昇に耐えれば、需要国の経済はそれほど大きなダメージを受けないのだ(第77回・p3)。

 従って、日本・サハリン間でパイプラインを敷設することは、日本の資源獲得の多角化・安定化に資するだけではなく、日露関係において、日本の交渉力を高めることになり、両国の関係の安定化につながると考える。何度も浮上しては消えるパイプライン構想だが、「パイプラインを引いたら、日本はロシアに飲み込まれる」という間違った通説に惑わされず、実現に向けて動くべきである。

今後の懸念材料:
ロシア国内の権力闘争とトランプ氏

 今後の日露関係の進展については、2つの懸念があると考える。1つは、ロシア国内の権力関係の問題である。プーチン大統領の権力基盤は基本的には強固であると考えられる。しかし、今回の日露首脳会談の直前に、経済協力についてのロシア側の窓口だったウリュカエフ経済発展相が突如解任された。ロシア国内でなにがあったかは不明だが、クレムリンの周辺で激しい権力闘争が日常的に行われていることは間違いない。

 北方領土問題について、挑発行為を繰り返したメドヴェージェフ首相など、日本から見える範囲でも、日露関係の進展に好意的とは思えない政治家が多数存在するのも事実だ。これから、官民合わせて80件の共同プロジェクトを、事務レベルで進めていくというが、ロシア国内の権力闘争によって、突如ストップするということはあり得るだろう。