トランプ次期大統領は安倍首相との会談の後、再びTPPからの離脱を口にし、孫社長との会談後は、孫社長を持ち上げつつ米国内の雇用促進のための投資が圧倒的に重要であると強調し、蔡総統との電話会談後はツイートで中国の南シナ海政策を激しく批判し、「一つの中国」政策も取引の対象であるかのような示唆を行った。

 これらは米国大統領が西側世界の指導者である理念を示すより、米国の利益最優先という目的のため取引を辞さないという考えのように見える。もちろん政策は多くの利益の調整という結果、現実的にならざるを得ないが、トランプ政権の特色が維持されるならば果たしてアメリカの政策は、そして世界はどのように変化していくのだろうか。

短期的には好況に
長期的には双子の赤字か

 短期的には米国の経済は好況感に満ちていくだろう。トランプ次期大統領はインフラ再建のための投資を重視し、減税を実行し、金融規制の緩和を進めていくのだろう。金利は上昇し、ドルは価値を上げる。しかし結果として輸出にはブレーキがかかり貿易収支は悪化し、財政赤字と併せ「双子の赤字」が問題化するのだろう。

 これは1980年代のレーガン大統領時代と似通った面がある。当時もっとも貿易赤字が多かった日本に対する激しい圧力が深刻な貿易摩擦を生んだ。結果日本の市場が開放され通貨の調整(プラザ合意)が進んだわけで日本に不利益であったとは言いがたいが、トランプ政権下では対日もさることながら対中関係で厳しい通商摩擦を生むのだろう。中国は米国が市場の障壁を上げれば報復措置をとるだろう。

 東アジア情勢にとって極めて重要な意味を持つ中国との関係は通商摩擦が生ずるだけではなく、大きな変化が生まれ得る。トランプ政権は従来の民主党政権が重視した人権問題には大きなウェートを置かないのかもしれない。上述の通り、トランプ次期大統領は中国との取引を通じ「グランド・バーゲン」(複数の事項を一括的に決着させること)を行うことが念頭にあるのかもしれない。

 これは習近平国家主席が就任直後オバマ大統領との首脳会談で提案した「新型の大国関係」と一脈通じるものがある。「米中双方が各々の核心的利益を尊重すればウィンウィンの大国関係が生まれる」という点がこのコンセプトの中核である。

 トランプ次期大統領が「一つの中国」政策すら取引材料であると示唆したのはまさにこのことが頭にあったのかもしれない。中国が通貨や貿易面で米国に譲歩し、南シナ海や東シナ海問題で自制的な態度をとれば「一つの中国」はもとより、中国の影響力の拡大を認め協力を拡大していこうということか。