
田中 均
参院選でも不動産投機や犯罪増加などの「外国人問題」を取り上げ、外国人排斥や管理強化を求める主張があるが、欧米とは実態や歴史が違う。少子化による労働人口減少への対応だけでなく、島国である日本が多様な考え方や文化、情報などからのガラパコス化を避けるためにも、海外に開かれた制度設計や社会作りこそが重要だ。

トランプ政権の「米国第一」による国際協力体制からの離脱という現実のもとで、日本の外交はソフトな安全保障協力や環太平洋経済連携協定(TPP)拡大など自由貿易強化で中国、韓国との協力体制構築を目指すべきだ。三国協力をてこに、米国の一国主義を抑え変えさせる役割を日本は果たす必要がある。

中国の海洋膨張やロシアのウクライナ侵攻に加えて、「米国第一」を掲げ自国利害を大国同士の“折衝”で実現しようとするトランプ政権の登場で、国際関係や秩序構築は大国同士の取っ組み合いの様相に変わりつつある。同盟国米国の変貌で日本外交は修正を余儀なくされ、とりわけ米中貿易戦争への対応が鍵となる。

トランプ政権の通商・外交戦略は「相互関税」に象徴されるように国際社会の規範より自国利益を唯一の基準にしている。日本はトランプ政権への「防衛策」を考える必要があり、自由貿易体制維持のためTPPを軸に中国を含む東アジア、さらには欧州との連携を強化することが重要だ。

ウクライナ停戦交渉や「相互関税」などトランプ大統領が主導する外交や貿易政策は戦後80年の間に国際社会が築いてきた規範や秩序を破壊しかねないものだ。米国の利益優先を掲げるが、これまでの国際社会への指導力や貢献に対する信頼喪失など米国自身が失う利益が大きいことを認識すべきだ。

トランプ大統領とプーチン大統領の間でウクライナの停戦交渉開始が合意され2月18日には米ロの高官協議が始まった。懸念されるのはトランプ大統領が「米国第一」の発想や停戦実現で外交的成果を得るのを優先することだ。国際法違反が明白なロシアの行為を曖昧にした現実利益重視の停戦となれば、世界の分断はより深刻な形で進む。

朝鮮半島情勢は、韓国で尹錫悦大統領の「逮捕」と「弾劾」をめぐっての混乱が続く一方、ロシアと連携を強める北朝鮮が弾道ミサイル発射で存在感を誇示し、不安定化が強まる。米国はトランプ新政権が「自国優先」で北朝鮮との独自交渉に踏み出す可能性もあり、日本は情勢変動に備えた戦略の準備が必要だ。

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領弾劾問題やシリア・アサド政権崩壊など混乱の2024年を象徴する事態が起きたが、25年は米国のトランプ新政権の動向を中心に新たな戦火拡大など「六つの重大地政学リスク」が考えられる。民主主義国家の政治が不安定で、リスクを十分に管理できるのかどうかも大きな懸念だ。

北朝鮮のロシア派兵や中国の経済停滞長期化、日韓の保守政権の基盤弱体化、対中国強硬姿勢のトランプ第2期政権誕生などの直近の地政学的変化は、東アジアの不安定化を強めかねない。とりわけロシアと北朝鮮の関係緊密化は、朝鮮半島の軍事バランスを変える懸念がある。

米大統領選挙で完勝したトランプ前大統領の第2期政権では「米国第一」主義が1期目以上に強まり、「米国の短期的、直接的な利益」を最優先に、「取引」や、時には正義を棚上げしての現実主義の外交安全保障政策や通商政策を展開するとみられる。同盟国にとっても不確実性の強い政権への対応が課題になる。

米大統領選の情勢を一変させる「オクトーバー・サプライズ」があるとすれば、イスラエルのイランの核や石油関連施設への攻撃拡大だ。ネタニヤフ首相は中東の混乱拡大がバイデン・ハリス陣営を不利な状況にし、親イスラエルのトランプ氏の勝利に結びつくと考えているフシがある。

日本製鉄のUSスチール買収問題は米大統領選挙の政治イシューとなり、実現が危ぶまれる事態だ。最終的には対米外国投資委員会(CFIUS)の審査、勧告を受けた米政府の判断にゆだねられるが、同盟国の企業による買収が認められないとなれば、経済安全保障に名を借りた保護主義の悪例となりかねない。

米大統領選は、民主党の候補になったハリス副大統領が若さや非白人、若年層の支持が多いリベラル派、そして冷静、穏健など過激なトランプ氏との対比を前面に出すことで勝利する可能性が高い。問題は選挙後、「MAGA」路線との分断や対立が一層深刻化することだ。

NATOとの「協力強化」やフィリピンとの「準同盟」関係への格上げなど中国への対抗措置を強める日本だが、中国とは歴史的、文化的に関係が深く経済の相互依存も強い。中国台頭に安全保障での日米連携強化は必要だとしても、一方で、独自外交で日米中の関係作りを模索することが日本の国益だ。

インド総選挙と欧州議会選挙は、大勝をもくろんだ第一党の過半数割れや極右勢力の伸長など予想外や予想を超える結果になり、既成の政治体制への反発が大きいことを示した。秋の米大統領選挙や年内とみられる日本の衆議院選挙でも分断の深刻化や体制の不安定化が強まるのかもしれない。

新たな安全保障戦略として米国が掲げる同盟国と一体になった軍事や外交、経済制裁などによる「統合抑止」は世界の安定に機能するのか。試金石はウクライナ戦争を収束に結び付け欧州の安定を実現することと台湾有事を回避できるかどうかだが、中国、ロシアで長期独裁の基盤が固まる中で成果を得られる見通しは立っていない。

日米首脳会談の共同声明は自衛隊と米軍の指揮統制の連携強化など、日米の軍事一体化やAUKUS(オーカス・米英豪の安全保障枠組み)との協力強化を打ち出し日本が対中国の最前線と位置付けられるような内容だ。安全保障の観点からは是とされるにしても、日本の憲法や外交の自主性・自律性を損なうことにならないのか、重大な懸念を残した。

米大統領選挙は直近世論調査でも「トランプ氏有利」だが、米議会襲撃などの4つの刑事訴訟の審理が並行して行われ、「民主主義の破壊者」のイメージが致命的に強まる可能性がある。だが一方でトランプ氏台頭の背景にある「既成政治不信」も根強く、勝敗は予断を許さない。

韓国を「敵対的国家」と位置付け、さらなる軍事偵察衛星打ち上げを目指すという金正恩総書記の発言に象徴される北朝鮮の強硬姿勢などは、連携を強化する米日韓を揺さぶる狙いがあるが、北朝鮮が国際的孤立を脱する好機だと判断してもおかしくない国際情勢の変化があることには要注意だ。

2024年の世界はウクライナ戦争など「5つの分断」の下で不安定さを一段と強める懸念がある。分断の背景には各国の歴史的怨念に加え米国の指導力低下があるが、米国自身も国内に深刻な対立を抱える。情勢次第では中国・ロシアが主導する権威主義国家群とG7(先進7カ国)などの民主主義国家群とのより大きく深刻な分断になっていきかねない。
