独高級スポーツカーメーカー・ポルシェが日本市場での存在感を急速に高めている。1000万円以上もする売れ筋モデルが飛ぶように売れており、2016年度上半期の販売台数は前年同期比7%増となった。16年7月には、ポルシェとしては初めて日本法人主催の経営戦略発表会を開催するなど日本市場の拡充にも積極的だ。2020年には電気自動車(EV)の市販車投入を計画するなど電動化シフトも鮮明にしている。ポルシェが描く「車の未来」とは?ポルシェジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長に話を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 山本輝)
――ポルシェでは、2020年までにEVコンセプトカー「ミッションE」の市販化を目指しています。すでに、プラグインバイブリッド車(PHV)モデルも展開していますが、スポーツカーを主体としてきた自動車メーカーが電動化車両を造る意義はどこにありますか。
ポルシェ ジャパン株式会社代表取締役社長。1958年生まれ。一橋大学卒業後、群馬銀行に入行。その後、メルセデス・ベンツ日本、ダイムラークライスラー日本を経て、クライスラー日本代表取締役社長。2014年より現職。かなりの車好きとして知られる。
自動車には様々な使い道がありますが、単なる移動だけでなく、その間で運転を楽しむということが、スポーツカーの最たる役目だと思います。動力に対してどんな制限が加えられようとも、全てのお客様にスポーツカーのドライビングを提供したいというのが大きな目的です。これから先、10年というスパンで考えれば、多くの人の予想通りに電動化は進むと考えています。電動化が避けられない中で、スポーツカーの良さをどのように体現していくかということですね。
もちろん、EVにも利点はあります。一つには、立ち上がりの加速感がすばらしいこと。普通の内燃機関車よりもはるかに加速性能が優れています。
回転数が増加すると逆にトルクが落ちるとか、「走る・曲がる・止まる」のバランスが取れて初めてスポーツカーとしての魅力が出るとかといった課題はありますが、少なくとも内燃機関車よりは強力なエンジンを造れる可能性が高いわけです。
何十年先というスパンで見れば、ポルシェの車が全てEVになっていることだってあるかもしれません。全ての可能性を排除することなく車の未来を描いています。
――世界的に環境規制が厳格化される中、電動化対応は生き残るためのエントリーチケットに過ぎない、とも言えます。
そうかもしれません。ただ、われわれが考えている電動化の大きな役割は、持続可能性です。つまり、化石燃料を主体としたエンジンは、資源が枯渇するとそこで終わりですが、電気であれば、様々な形でつくることが可能だということです。水力、風力、原子力などの電源構成の議論は道半ばですが、電気は一つの選択肢です。100年先も持続できるパワートレインを造っておくという備えは、自動車メーカーの経営にとって不可欠です。