古から今も変わらず慣習、習慣を受け継ぎながら、流々とした時を刻む町京都祇園。時代を超えて私たち日本人の心を惹きつける「粋の文化」を祇園に入り浸る著者が「かっこいいおとな」になるために紡ぐエッセイ。第1回は1月の京都ならではの風景をお伝えします。

サービス業の原点が詰まっている京都祇園

 1月の祇園は、芸舞妓やお茶屋関係者が集い、祇園歌舞練場で始業式なるものが執り行われます。前年度の精勤賞や伎芸、学業の授賞式、成人を迎えた人のお祝いなどを行うのですが、圧巻なのは全員が正装にあたる黒紋付を着ての式典です。迫力があり、厳かさの中にも芸事に対するみなの意気込みに圧倒されてしまいます。

 勿論ですが一般には非公開ですので、業界人以外は入ることは出来ません。舞のお家元である井上八千代さんの舞が舞われ、八坂さんの祭壇にお参りをして、お神酒をいただき始業を祝うのです。伝統と文化、古と弔いごとを今も大切に受け継ぐこうした行事は毎年何ら変わることもなく執り行われています。

 祇園町では今も変わらず、正月の間は正装である黒紋付を着ることとされています。またこの日に通称「団子帳」と言われるダイアリーが配られます。これは祇園の情報がびっしりと詰まった優れもので、しかも二年先までの予定が書き込めるように作られています。お茶屋や料理屋の電話番号はもとより、花街での生活に必要なことが満載です。伝統技芸を磨くのが芸舞妓衆のお仕事ですが、それだけではなく「もてなす」というサービス業の原点のようなものがこの街にはぎっしりと詰まっていて、それらをご贔屓筋やお客にさりげなくできることも彼女たちのお仕事なのです。そこにはどこかしら昨今のビジネスに通じることが潜んでいて、実際にホテル業や飲食業などのモデルになっていることも多々見受けられます。

お茶屋の世界は「一見さんお断り」という完全会員制を基本としています。諸説ありますがこれは贔屓の客を大切にするということ、クレジットカードがない時代から代金は後払いという信用での飲食ができるというところにも影響しています。実際にお茶屋街での飲み食いや花代と言われる芸舞妓衆のギャラなどはお財布を持ってなくても自分の贔屓のお茶屋がすべて立て替えて支払うという文化が今も当然のように行われています。驚くのは贔屓になるとタクシー代から近所の喫茶店、お土産に至るまですべてお茶屋が立て替えて払いまとめて請求してくれるのです。

 限度額などという細かいことは言わずお客を立ててくれるのも、お茶屋と客の信頼関係が出来上がっているからこそできるようです。ともかく花街というと一種特異に思える街なのですが、そこには先人が考え抜いたもてなしの原点とコンシェルジュサービスの基本のようなものが織り込まれています。だから、「一見さんお断り」というのは当たり前で、そもそもお茶屋は自分の家の座敷を使わせるわけですから知らない人が入れないのは当然なのです。お正月の始業式から始まり古に法って変わりなく、一年の行事を粛々と熟していくのです。祇園で遊ぶというよりはお勉強に通っていると言えるぐらいの粋なおやじになりたいものです。