実際、聖なるものや非合理的な存在を完全に否定できる人はほとんどいないはずですよ。自分は無宗教だ、合理主義者だという日本人も、よく考えれば思い当たる節がたくさんあるはずです。

 例えば、多くの人が大混雑するにもかかわらず、お盆には帰省する。これは、先祖を大事にしているということです。縁起が悪いという感覚も、多数の日本人が持ち合わせているでしょう。

 あるいは、結婚式に牧師さんを呼ぶでしょう。キリスト教徒でもないのに。極言すれば、葬式だってやらなければかっこがつかないという感覚がある。そういう感覚がまったくなければ、人間は生きていけませんよね。

 国家にとってもそれは、同じこと。そして、生き物である国家にとって必要な儀式は総理大臣には無理でしょう。天皇、皇室だからこそ聖なる空間が生まれる。

生前退位について
本質的な議論はかなり難しい

──『ミカドの肖像』では西武グループの創業者・堤康次郎が各地の元皇室の土地を買い集め、プリンスホテルを建設していった話も紹介されています。

西武グループの創業者・堤康次郎は各地の元皇室の土地を買い集め、プリンスホテルを建設した。Photo:JIJI

 日本人が皇室に対して感じる、神秘性、憧れやブランドなどをうまく利用したケースですよね。

 プリンスホテルの話を『ミカドの肖像』の前半に持ってきた理由は、やはり耳目を引く話題を最初に見せることで、多くの人に本を手に取ってもらいたかったからなんですが、本当に伝えたかったのは、本の中盤からの、日本人にとって天皇とは何かという部分だったんですけどね。

──生前退位について今後の議論は、どのように進んでいくと思いますか。

 多くの人が「国民的議論を」と言いますが、本質的な議論はかなり難しいでしょう。