アパが謝罪すれば
トヨタに飛び火も!?

 企業として客を差別したり、特定の歴史認識を押し付けようとしたのならまだわかるが、経営者の個人的な思想や言論が批判され、企業全体が「謝罪」に発展するというモデルケースができれば、冒頭に紹介した「世界消費者権利デー」のように、その企業にかかわる社員や関係者が少しでも「南京タブー」に触れただけで、企業が責任を負うというのが「常識」となってしまう。

 また、中国進出企業の安全のために、そことは直接関係のない「公人」が頭を下げるというスタイルが前例化すると、中国の国際広報戦略のバリエーションを一気に広げ、それが逆に日本企業のリスクになる。

 たとえば、今回の騒動を受けて河村たかし名古屋市長が南京大虐殺を否定するような発言をした。私はかつて、あの人の著書づくりに協力したし、戦時中に南京郊外で終戦を迎えた父上の戦友にも取材をしたこともあるので擁護すると、河村氏はいっちょ噛みで発言をしているわけではなく、国会議員時代から幾度となく南京市に足を運び、自分なりに調査をしたうえで、ああいう発言をしている。

 こういう政治信条を持つ「公人」はアパが陥落した場合、次の標的になる可能性が高い。たとえば、もしも筆者が中国共産党幹部だったら、欧米人を用いて、こんな情報戦をSNSで仕掛けるだろう。

「南京大虐殺はなかったという右翼市長のお膝元にあるのは、トヨタだ。もしトヨタの車を買おうという人はその事実を知った方がいい」

 日本人からすれば支離滅裂かもしれないが、「反日広報」というのはそういうものだ。

 そして、3つ目の理由が「ホテル事業へのダメージ」だ。専門家はこのままアパが謝らないと、中国人団体観光客が来なくなって、アパの成長に歯止めがかかるという。たしかに、しばらくは中国人がアパを訪れることはないかもしれないが、それが長期化するとは考えにくい。

 根拠は、12年の尖閣諸島沖の中国船籍事件が引き金になった「反日デモ」だ。あの時、中国からの団体旅行は1万人規模のキャンセルなどがあって、日本のマスコミも「観光地悲鳴」「消えた中国人」と、まるでこの世の終わりのように大騒ぎをした。

 13年は中国観光客がマイナス7.8%と落ち込んだが、翌年はすぐに持ち直してプラス83%の伸びを見せている。さらに13年も中国の落ち込みをカバーするように、香港、台湾、タイからの観光客がプラス50〜74%で伸びたのだ。