英国メイ首相は「欧州連合(EU)単一市場から完全に撤退(Brexit)」することを表明した。EU単一市場域内では、人やモノ、サービスの自由な移動や取引が認められる。3月にもEU離脱交渉が始まる。
しかし、この表明の後、英ポンドは大幅高になった。この動きには違和感を持った人も多いのではないか。そうでなくても、英国の金融市場は意外な出来事が多い。昨年来のEU離脱の動きで英経済は悪化し、たとえば英国株式は下落すると考える人が多かった。
それに反して英株式は上昇し、史上最高値を更新した。英経済の主力産業の一つは「観光」であり、訪問客が増えたからである。トルコの政情不安も影響している可能性が高い。トルコはテロが横行しており、観光客が激減している。その観光客の一部が英国に向かうのだ。さらに、先進国であり、通貨安により「輸出」が拡大したからである(日本は海外に産業を出し過ぎて、すでに円安による輸出拡大・景気刺激効果は10年前の5分の1程度に落ちている)。
今回の表明に際しては、離脱交渉について上下両院(貴族院と庶民院)の承認を求めるとした。ここが英ポンド大幅高のポイントである。そもそもは与党・保守党のキャメロン元首相をはじめ、最大野党・労働党の多くの議員、それに、第3党のスコットランド民族党の大半の議員がEU残留を支持していた。要はそもそも離脱反対派が多いのだ。上下両院の承認は得られにくく、少なくとも難航が予想される。このことはつまり、実は英国は離脱しない、少なくとも「強硬な離脱(Hard Brexit)」はないとの観測を呼んで、英ポンドが大幅上昇したのである。
この上下院の承認条件は、英最高裁判所が、欧州連合(EU)離脱手続きの開始には「議会の承認」が必要との判断を下したことが影響を与えている。最高裁の考え方のポイントは、英国の政治制度は間接選挙制と定められており、直接的な国民投票は意味がない、ということだ。国民投票は、キャメロン元首相の独自の考えで行われたことであった。
ということで、英国のEU離脱についてはまだまだ目が離せない。今年は、英国も欧州も米国も、このような「政治リスク」が市場を動かす主因になりそうだ。
(経済学博士・エコノミスト 宿輪純一)