春商戦に向けて米国の自動車ディーラーが在庫を積み増すタイミングで起きた東日本大震災。今春は、ガソリン高を背景に、米国でも低燃費コンパクトカー人気がいっそう高まることが確実視されていただけに、減産を余儀なくされた日本勢が逃した商機は大きなものになりそうだ。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、そして韓国の現代自動車が、本調子ではない日本勢に代わって、小型車ブームの恩恵に大きく与ることになりそうである。
(文/ジャーナリスト、ポール・アイゼンスタイン)
米国でコンパクトカーの購入を検討している消費者にとって、これほど目移りする状況はかつてなかっただろう。コンパクトカー市場は今、世界各国のメーカーが作る信頼性の高い商品で溢れかえっている。
しかし、米国の消費者にとって良いニュースは、トヨタ自動車やホンダなど日本車メーカーにとっては悪いニュースかもしれない。今、消費者の目の前に大量に溢れているのは、GMが昨秋に投入したシボレー「クルーズ」やフォード新型「フォーカス」、あるいはモデルチェンジしたばかりの韓国・現代自動車「エラントラ」といった日本車のライバル商品だ。これらのクルマは、東日本を巨大な地震と津波が襲い、その影響でアメリカのディーラーでも日本車の在庫が少なくなったちょうどそのころに、春商戦に向けて届けられたものだ。
タイミングは特にホンダにとって厳しい。アメリカで高い人気を誇る「シビック」ブランドに新型車をこの春に投入して、ライバル他社の挑戦をかわそうとしていたその矢先だったからだ。他の日本車メーカー同様、ホンダもまた震災後に複数の完成車工場の生産休止に追い込まれた(4月11日に再開の予定)。そして、すでに報道されているように、日本からの部品の供給が滞ったために、北米の組み立て工場でも減産を余儀なくされた。
いまのところ、新型シビックの販売戦略は予定通り進められているようだ。しかし、震災の影響で、ディーラーが望んでいたよりもかなり少ない台数しか今後数カ月はショールームに届きそうにない。
実は春は、かなりの台数のクルマが売れる1年のなかでも重要なシーズンである。しかし、ホンダ車に限らず、米国で営業している日本車のディーラーは、例年に比べて半分の水準の在庫しか持てそうにない。米新車販売店最大手オートネーションのマイケル・ジャクソンCEOは、「在庫は恐らく数週間内に半減し、その状況が何カ月も続くだろう」と見ている。
米国のガソリン価格が2008年半ば以来の高値である1ガロン当たり4ドルに迫る勢いであることを考えると、日本車メーカーにとってのタイミングは非常に悪い。低燃費コンパクトカーの需要が伸びるのは火を見るより明らかであり、本来ならばシビックなど日本の小型車が大きな恩恵に与る位置にいたはずだからだ。