課題は事業としての継続性
このたびの東日本大震災では、あらためてモノが普通に手に入るということが、「どれだけありがたいことか」を思い知らされることになった。また、普段便利に利用しているものが“いざ”というときにはあまりも脆く、効率を求めすぎたがために、いかに自分でできることまでも捨て去ってしまったかを痛感させられた。
しかし、われわれが今回味わった思いは非常時でのこと。普段から同じような思いを抱きながら生活を送っている人たちがいる。
「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品などの日常の買い物が困難な状況に置かれている人たちのこと。高齢者が多く暮らす過疎地や高度成長期に建てられた大規模団地などに多く見られる」と称されている「買い物弱者」だ。経済産業省の推計では600万人程度に上るとされている。地域コミュニティとのかかわりの中に自らの役割を見だしている流通小売業の間では、買い物弱者を支援するサービスを試験的にスタートさせるところも出てきている。
大分県北部でHCやガソリンスタンドを営むある企業では、60歳以上のお年寄りを対象に配達料を無料とするサービスを実施している。「灯油を配達する際に、ほかの商品をいっしょに運べば負担にならないのではないか」(担当者)とスタートして6カ月を経過した。「まだまだ実験段階の域を出ていない。継続的なサービスとして提供していくためには、利益が出なければならない。まだそこまでの確信は持てていない」という。
栃木県を地盤とするHCのカンセキ(長谷川静夫社長)は、昨年の12月より、お年寄りが電話で商品を購入できるサービス「スマイル便」を展開している。60歳以上のポイントカード会員が対象で、利用者には1年に3~4回、専用のカタログを自宅に送付、電話注文により商品を宅配する。立ち上げ時に「ネットにするかカタログにするか」を比較検討、現在のスタイルで2カ月ほど、試験的に実施したという。「カタログ請求の電話もあり需要の拡大が期待できると判断」(担当者)、順次、サービス提供店舗を増やしてきた。4月現在、栃木県、群馬県、福島県の10店舗でスマイル便サービスを行っている。
石川県でHCを経営する企業では、2月から県内全域をサービス対象地域に生鮮食品を扱うネットスーパー事業をスタートさせた。「まだあまり知られていないせいか、利用者はそれほどいない。生鮮食品の鮮度を維持しながら配送するのに、思った以上にコストがかかるのが課題」という。
また、半年以上、配達料無料の宅配サービスを展開しているある企業のトップは「常識的に考えて、5000円くらいのまとまった注文が来るだろうと考えていたが、こちらの事情などお構いなしに、『牛乳1本持ってきて!』『卵1パック、いますぐ欲しい!』というわがままに近いような注文もある」と、ビジネスとして展開を考える上での買い物弱者支援の難しさを語る。今後は「認知症の人からの注文が入ることも考えておく必要がある」とも。
経済産業省では1月、平成22年度地域商業活性化補助金(買い物弱者対策支援事業)の採択事業48件を決定、公表した。買い物弱者の増加などの問題を解決するためには、流通事業者や地方自治体などが連携して事業を実施することが重要と考え、助成金の対象となる事業を公募したものだ。
HC業態では、DCMグループのダイキ(愛媛県/佐藤一郎社長)が松山海運運送と連携して離島に住む買い物弱者支援を行う事業を申請、助成金の対象事業として採択された。今年3月末の取材時には「事業の概要はほぼ固まっているが、経済産業省からの事業の継続性などについてのチェックが完了するまでは公表できない」ということだが、4月中旬には詳細がはっきりする予定だ。
事業の継続性は、試験的に買い物弱者支援サービスを行っている企業にとっても最も気になるところ。ダイキの場合、どういう事業プランでこの点がクリアされたのか、早く公表の日を待ちたい。
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