「賃貸はリフォームできない」はもはや“常識”ではない。昨年8月、国土交通省は退居時の原状回復義務を緩めた契約が交わせるようにガイドラインを改定した。この規制緩和により、リフォーム業界はこれまでほとんど未開拓だった「賃貸住宅入居者」のマーケットを掘り起こせるようになった。リフォーム事業に力を入れるホームセンター各社にとって、新たなビジネスチャンス到来だろうか? (ダイヤモンドホームセンター 寺尾淳)

リフォーム可能物件は今春URから民間にも拡大

 賃貸住宅の賃貸借契約書のほとんどは、トラブルを防ぐために国土交通省が示すガイドラインに準拠している。従来のガイドラインでは、入居者には必ず退居時の「原状回復義務」を課していた。

 しかし昨年8月、国土交通省はガイドラインを改定し、オプションで原状回復義務を外した契約書も交わせるようにした。たとえば間取りを全面的に変える大規模リフォームは不可でも、6畳の和室をフローリングの洋室に変えて床暖房を設ける程度のリフォームは原状回復義務を課さず、そのまま退居してよい、という内容の契約も交わせるようになった。それなら入居者は自分で好きなようにリフォームができる。家主も「愛着を持って長期間、丁寧に住んでもらえる」「住宅がグレードアップするので費用をかけてリニューアルしなくてもよい」「入居者募集に有利で空室リスクを減らせる」といったメリットを享受できる。

 この規制緩和に対応して、リフォーム可能な「DIY住宅」の募集を昨年9月から試験的に始めたのがUR都市機構(旧公団)だった。今年1月からは対象物件を増やして本格的に募集を開始し、東京の多摩ニュータウン・南大沢でモデルルームも公開している。窓の二重窓化、和室の洋室化の他、壁を取り払って2部屋を1部屋にできる住宅もある。URでは工事期間とみなして当初3ヵ月間の家賃を無料にした。一方、民間のアパート・マンションでも春の需要期を前に一部の不動産業者が独自のサービス名称をつけてPRを始めている。リヴァックスの「カスタムウォール」は、壁に限って原状回復義務を外した新契約で、壁面を好きなようにリフォームできる。ユニホーの「えらべるる~む」は、壁紙、床材、建具の色やドアノブなどを入居前にチョイスしてリフォームできるという。

 URも民間の大半も、リフォームの施工は入居者が日曜大工で行っても、業者に依頼してもよい。そこにホームセンター(HC)のリフォーム部門が入り込む余地がある。小さい工事はDIY売場のコンサルティングの一環でアプローチするのも可能かもしれない。

 とはいえ、民間では不動産業者のコネクションで工事業者を紹介してもらうケースがほとんどだという。「主に単身の女性が興味を持っているが、リフォームというよりは部屋の模様替えの延長。高くても10万円程度のオーダーだ」(不動産業者)といい、都心部のワンルームから2DK程度のマンションで小口の案件がポツリポツリと入る状況がうかがえる。

 不動産業者の話によると、リフォーム可の賃貸物件は付加価値が高まり、家主にとってもメリットがあるが、契約書で原状回復義務を外すことに抵抗感があり、現状、サービスを提供できるのは自社所有物件がほとんどだという。「リフォームして住みたい」という需要は確実にあるものの、こうした理由から物件数が急増するまでには時間がかかりそうだ。

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