本当の勝者はどちらなのか――。

 4月21日、三菱UFJフィナンシャル・グループが資本提携先である米金融大手モルガン・スタンレーを連結決算の対象にすると発表した。

 三菱UFJはリーマンショック直後の2008年10月、経営危機に陥っていたモルガンに優先株で90億ドルを出資。そのうち78億ドルを今回、普通株に転換して22.4%の議決権を握り、大株主としての発言力を強める。

 邦銀が世界的な金融大手の経営に直接関与するのは前例がなく、三菱UFJの平野信行副社長は、「戦略的資本提携を強化できる」と主張する。

 ところがこの出資劇、両社のメリットとデメリットを冷静に比較すれば、明らかにモルガン側に有利であることが窺える。

 というのもモルガン側からしてみれば、「普通株への転換はずっと望んできた悲願だった」(モルガン関係者)。優先株の配当利回りを10%も保証、8億ドル(年ベース)を三菱UFJ側に支払い続けてきたからだ。優先株より配当利回りの低い普通株への転換で、目の上のたんこぶだった巨額の“上納金”負担がなくなるというわけだ。

 それだけではない。国際的な自己資本規制の強化が目前に迫るなか、その基準に抵触しそうだったモルガンの狭義の中核的自己資本(普通株Tier1)が大幅に増強されるとあって、モルガンからしてみれば願ったり叶ったりの契約なのだ。

 一方、三菱UFJのメリットといえば、モルガンに派遣する取締役を1人から2人に増員するくらい。しかも、あくまで13分の2になるに過ぎず、「経営を支配できるわけでもなく、なにも変わらない」(モルガン関係者)。

 モルガンの収益を取り込むことができるとはいえ、モルガン本体の経営を手足のように動かせるわけではないまま、収益の振れ幅の大きい投資銀行を連結対象に抱え込むリスクは決して小さくない。

 むしろ、これまで高い配当を約束されていた優先株から、低い配当しか得られない普通株に「転換させられた」との見方が金融界ではもっぱらなのだ。

 では、なぜこれほどモルガンに大きく有利な転換が行われたのか。じつはその背景に、「三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)の巨額損失がある」(モルガン関係者)というのだ。

 11年3月期、モルガンが4割出資するMUMSSが1450億円もの当期純損失を抱え、これに伴いモルガン本体も損失6億5500万ドルの計上に追い込まれたのである。

 しかも、損失の最大の理由はMUMSSの自己資金によるデリバティブ取引で、モルガンは損失を出したポジションを一部引き取ったうえ、代わりに処理することを受け入れた。「これを材料に、交渉を優位に進めた」(モルガン関係者)というわけだ。

 そもそも「今後、出資比率を引き上げることはない」(平野副社長)にもかかわらず、あえてこのタイミングで普通株に転換するべき合理的な理由は見当たらない。モルガンにしてやられたとしかいいようがあるまい。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、山口圭介)