小倉昌男会長が許さなかった「値上げ」

 前回の値上げ時に社長を務めていた都築幹彦氏から直接聞いた話だが、値上げを強硬に反対する小倉昌男会長(当時)に対し、辞表を懐にしのばせながら説得を続けたという。

 当時はバブル全盛であり、取扱個数の伸びに労働力確保が追いつかない中、やむなく値上げに踏み切ったという経緯があり、構図自体は今回に近いものがある。都築氏は「後にも先にも1回限りの値上げ」と主張し、なんとか小倉氏を説き伏せたという。

「サービスが先、利益は後」という企業理念が示す通り、利用者に不利益を与えることをもっとも嫌うのがヤマトのDNAだ。

 逆に言えば、そうした矜恃を捨ててまで値上げに踏み切らざるを得ないということは、同社が置かれた現状がそれほど切迫していることを裏付けている。

 もっとも、現在の個人利用の宅急便取り扱いは全体の1割程度であり、基本運賃の値上げによる収益貢献は限定的だ。

 筆者はむしろ、真の狙いは、アマゾンをはじめとする法人顧客対策にあると考える。聞くところによると、アマゾンは常に値上げにはシビアであり、仮に値上げを受け入れたとしてもサービスレベルのアップを交換条件として突きつけるという。

 そうした厳しい大口顧客に法人契約運賃の値上げを呑ませるには、宅急便の運賃体系そのものを変えることで理解を得る必要があるということではないだろうか。

 さらに、結論を急げば、アマゾンは値上げを受け入れざるを得ないだろう。何故ならば、数年前に佐川急便と決裂して以降、同社の膨大な荷物を運ぶことができる会社はヤマト以外にはいないからだ。

 厳しい時間指定ノルマや再配達の増加が長時間労働を引き起こし、配達員の疲弊を招いたことは想像に難くない。だが、これに加えてもうひとつ指摘しておきたいのは、ネット通販荷物の急増が配送現場の「創造性」を奪ったということである。