「これが、地方の現実なんです」
その晩、私はさぬき市商工会の十河会長の自宅に招かれた。十河会長は、足腰の弱った高齢者向けの介護シューズを製造する徳武産業の社長でもある。私が同社の経営顧問を務めているご縁で、地域活性化に力を貸してほしいと頼まれたのが、ことの発端だった。
奥さんの手料理と地元のさぬきワインをご馳走になりながら、意を決して打ち明けた。
「今回、お菓子事業者さんを訪問したのですが……。事業者さんも商工会の事務局も、本当に全国に通用する土産品をつくる気があるのでしょうか。当事者意識がまったく感じられませんでした」
十河会長は、私のグラスにワインを注ぎながら、こう言った。
「これが、地方の現実なんです。意欲も能力もある人が集まる都会の大企業とは違うでしょう。地方の仕事に関わるということは、この現実を何とかする、ということなのです。私も精一杯の応援をしますから、一緒にやってもらえませんか。佐々木さんにとっても、きっと学べることが多いはずです」
私は自分の考えの甘さを痛感した。そして、腹をくくってこのプロジェクトをやり抜くことを決意した。
(本連載は毎週月曜日に掲載します。次回は5月23日です)