経営再建中の東芝が分社する半導体メモリー新会社に、官民ファンドの産業革新機構や、政府系の日本政策投資銀行が出資する構想が急浮上した。水面下では、経済産業省の意向だけでなく、株式売却後のメモリーの生き残りを危惧する東芝内部の思惑が絡み合う。果たして有力な売却先の候補になり得るか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 村井令二)
「日米のメモリーメーカーを再編してサムスン対抗軸を形成するのはどうか」
東芝が分社する半導体メモリー新会社、東芝メモリへの出資を募集する入札が始まったばかりの3月上旬、ある政府関係者が東芝の半導体部門の担当者と接触した。その場で、競合相手の米ウエスタンデジタル(WD)や米マイクロン・テクノロジーと連合する構想について意見が交わされたという。
企業価値が1.5兆~2兆円とされる東芝メモリの株式売却は、3月29日に1次入札の提案を締め切る予定。すでに10社超が出資に意欲を見せており、WD、マイクロン、韓国SKハイニックスなど競合メーカーだけでなく、台湾の鴻海精密工業など取引先や、外資系ファンドも候補になっている。
各社とも最大の悩みは巨額の投資資金で、その負担を分け合う連合の動きが水面下で進む。
この中で急浮上したのが、産業革新機構や日本政策投資銀行の出資案だ。関係者によると、革新機構など政府系の資金を活用して、東芝メモリと米国勢との連合を実現し、「サムスン対抗軸」を形成する構想が一つの選択肢として検討されている。
この案の背景には、(半導体)フラッシュメモリー市場での競争の構図がある。韓国サムスン電子、東芝、WD、マイクロン、SKハイニックス、米インテルの6社寡占の中、首位のサムスンは出荷数量で40%のシェアを占め、最先端の3次元(3D)メモリーでも圧倒的に先行している。
このままでは、今の東芝のメモリー事業が好調でも、分社した後の生存競争で振り落とされてしまうという危機感が東芝内部に根強くある。