東芝の半導体売却の成否は“拒否権”を持つ米提携先が握るフラッシュメモリー生産拠点の四日市工場は、東芝とWDが共同運営する

 企業価値が1.5兆~2兆円とされる東芝の半導体フラッシュメモリー事業の争奪戦が始まる。

 米原子力発電事業の巨額損失で債務超過に陥る東芝は、稼ぎ頭のフラッシュメモリー事業を分社して4月1日に発足する「東芝メモリ」の過半の株式売却で再建を図る。完全売却も視野に今月中にも入札を始める予定で「5月くらいまでにめどを付けたい」(東芝幹部)構えだ。

 技術的難度の高いフラッシュメモリー事業は、韓国サムスン電子を筆頭に、東芝、米ウエスタンデジタル(WD)、米マイクロン・テクノロジー、韓国SKハイニックスの5社で世界市場の90%以上の寡占状態で、参入障壁が高い。それだけに、競合他社や取引先、投資ファンドが熱い視線を注ぐ。特にライバル企業にとっては、東芝が他社に奪われることは死活問題。WD、マイクロン、ハイニックスの3社は強力なサムスン対抗軸を形成するべく、入札に名乗りを上げる見通しだ。

 ここで鍵を握るのが、東芝とフラッシュメモリーの共同生産で提携するWDの「拒否条項」。関係者によると、両社の提携契約には、一方が他社の資本を入れる場合、その出資を拒否できる条項が盛り込まれているという。

 東芝と共同運営する生産拠点の四日市工場に対してWDは、2002~16年の間に累計1.2兆円もの巨費を投じてきた。あるWD関係者は「四日市工場の運営に競合が入ればオペレーションは大混乱する」と、マイクロンとハイニックスを拒否する姿勢だ。

WDは敵か味方か?

 しかし、東芝は、「独占禁止法の審査に時間がかかるので、競合企業は難しい」(幹部)とし、WDの資本参加にも否定的な姿勢だ。

 東芝のWDに対する慎重な姿勢には独禁法とは別の事情もある。「片手で握手をしながら、もう片方で殴り合う」(業界関係者)といわれる東芝とWDは、フラッシュメモリーの量産で協力しながら、世界市場で競合する微妙な関係。特に東芝にとっては、ほぼ同量のメモリーを生産しながら利益率で圧倒的な差をつけられている強力なライバルだ。