高校時代に一時、あまり真面目な学生でなくなり、(京都の)鴨川とかで授業をサボっていました。「このまま勉強をがんばっても人生幸せになれるのかな」と考えていたときに、ふと美術館に行って、いわゆる教科書的な西洋絵画ではない現代アートをはじめて見ました。そこで点数や成績で測れないものを知って「あ、美術って面白いな」と思ったんですね。その時やっていたのはドイツの写真展で、現代美術として初めて写真を見た時、写真ってすごくリアルで物語を感じて、そこでぴんとくるものがありました。

――作家の“一本足”で生きていくことを目指しているのでしょうか。

 (美術館で勤務中の)学芸員と小説家は、向かっている方向は同じで、例えば「これを伝えたいから展覧会にする」というのと、「こういうことを伝えたくて小説にする」というのは近いと思います。アーティストに関わったり美術の作品を調べたりするのも、仕事として好きなので、どちらも長く続けたいとは思います。

2作目は茶碗をめぐる物語
アートの世界は書くことがいっぱい

――目標とする作家や、ロールモデルのような作家はいますか。

『神の値段』 一色さゆり 著
宝島社文庫 本体価格630円
マスコミはおろか関係者すら姿を知らない現代芸術家、川田無名。ある日、唯一無名の正体を知り、世界中で評価される彼の作品を発表してきた画廊経営者の唯子が何者かに殺されてしまう。唯子のアシスタントの佐和子は、6億円を超えるとされる無名の傑作を守れるのか――

 (過去に読んだ中では)橘玲さんは面白かったです。彼のようになりたい、というわけではないですが、純粋に読んで面白かったのは橘玲さんですね。(橘玲の小説の)『マネーロンダリング』は『神の値段』にも影響していると思います。ちょうどギャラリーで働いている時だったので、お金持ちの方の心理とか、どういうセールスをしたら売れるかとか考えている時に、その辺りの話が分かりやすく感じました。

――ペンネームにはどんな意味があったのでしょうか。

(『神の値段』として書いた作品が)本当に受賞するとは思っていなくてとりあえずつけたのですが、墨のアーティストを扱う小説だったので、何となく作品にあった名前にしようと思いました。そこで墨も黒一色だし、姓名判断でも結果のよかった名前を付けたかんじです。方角や数が名前に入っていれば覚えやすいと聞いたこともあります。

──2作目はどのような作品を書いているのでしょうか。

 次は伝統工芸である京都の茶碗をめぐる物語を描こうとしています。マーケットという一つの尺度があるにせよ、それで全てを測れるわけではない。アートの世界は書くことがいっぱいあって「耕しがいのある大地」だと感じています。