著者二人から見た、アスリートの『嫌われる勇気』とは?
――目次を見てみると、そうしたアスリートの名前が並ぶのと同時に、『嫌われる勇気』の著者のお二人、古賀さんと岸見一郎先生のお名前もありますね。
松井 どうせやるならぜひこの「嫌われる勇気」というタイトルを生かしたい。それに、どうせならぜひ最もアドラー心理学をよく知るお二人にも参加してもらいたい、ということで打診したところ、非常に面白がってくださって、喜んで参加したい、と。
そこで、特集の2本柱として、エディー・ジョーンズさんのインタビューを古賀さんに、村田選手との対談を岸見先生にお願いしました。どちらもぜひ会ってみたいということで、古賀さんにはイギリスに飛んでもらい、岸見先生には京都から東京に来てもらいました。
――異種格闘技戦の取材という感じですが、いかがでしたか。
松井 村田選手は非常によく読んでいる読書家で、『嫌われる勇気』と続編の『幸せになる勇気』も相当読み込んできていました。そのうえで、悩みを率直に岸見先生に話してくださった。まさに「青年」と「哲人」の対話が実在の人物に再現されているようでした。
二人の間の媒介に本があるおかげで、トップアスリートの頭の中の葛藤や迷いといったものが赤裸々に打ち明けられています。こんなインタビューはなかなかできるものではありません。
瞬間瞬間の判断を求められるトップアスリートが、その前後でものごとをいかに合理的、論理的に整理しようとし、悩んでいるかがよくわかります。村田選手も「取材はたくさんあるけれど、こんなに楽しみにしていた取材はなかなかありませんよ」と言って喜んでくれたそうです。
――エディー・ジョーンズさんは「ハードワーク」などの言葉で有名なものすごく厳しい指導者ですね。確かにイメージとしては嫌われていそうです(笑)。
松井 エディーさんの指導哲学は、今までにも様々な形で語られてきました。しかしそこに古賀さんがアドラー心理学という“ものさし”を当てて読み解くことで、その覚悟や凄みがさらに明確になった、という気がしましたね。
エディーさんも読書家として有名ですが、アドラーには出会っていなかったそうです。しかし、インタビュー中も「自分を貫く勇気」といった言葉を再三おっしゃり、古賀さんのぶつけたアドラーの思想にも何度も「完璧に同意する」と共感していました。
先ほど挙げた松井さんや、今回取材したその他のトップアスリートにも言えるのですが、アドラーを読んではいなくても、皆さん同じ考え方に至って実践しているのが興味深かったですね。
――確かにスポーツには「勇気」がつきもの。アスリートはアドラーの実践者の最たる人たちなのかもしれませんね。
松井 インタビューの中でエディーさんはヘッドコーチという仕事を企業に喩えていました。まさに、スポーツに限らず、ビジネスや日常の様々な場面でリーダーシップを取る必要がある人の指針となる考え方が満載で、経営論、リーダーシップ論とも言うべきインタビューになっています。
努力や結果の形が明確に見えやすいアスリートという人たちだからこそ、アドラーの実践という点でも、非常にわかりやすい例を示してくれていると思います。『嫌われる勇気』の読者には、ぜひとも『Number』を手に取って確かめてみていただきたいですね。