現在、アメリカ・トランプ政権の注目テーマといえば緊張が続く北朝鮮情勢だが、そうした中、18日にペンス米副大統領と麻生太郎副総理兼財務相との経済対話が始まり、トランプ政権と日本政府の経済分野での議論が本格化する。アメリカ側からは対日貿易赤字削減、為替政策への要求などが予想されるが、トランプ政権のスタンスに対し、日本の企業経営者たちは今後をどう見据えて経営の舵取りをしていくべきか、ダイヤモンド・オンライン連載「今月の主筆」に登場した経営者に問う企画。今回は三菱ケミカルホールディングス会長で、経済同友会代表幹事の小林喜光氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 山出暁子)

短期的にアメリカ経済は上向く

――トランプ政権発足から丸3ヵ月経ちました。就任当初は企業に対する「脅し」ともとれるような発言も目立ち、保護主義的な動きへの警戒感が高まっていましたが、今、トランプ大統領についてはどのように見ていますか。

小林喜光(こばやし・よしみつ)/三菱ケミカルホールディングス会長 。1946年山梨県生まれ。71年東京大学相関理化学修士課程修了。ヘブライ大学(イスラエル)物理化学科、ピサ大学(イタリア)化学科留学を経て、74年三菱化成工業(当時)に入社、2005年三菱化学常務執行役員、07年三菱ケミカルホールディングスと三菱化学の社長に就任。15年4月より三菱ケミカルホールディングス会長。理学博士。15年度より経済同友会代表幹事。
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 少し前の話になるが、共和党内をまとめきれずにオバマケアの代替法案を撤回せざるを得なかったように、さすがに議会が納得しないと政策も動かないから、ある程度バランスを取っていくような動きは出てくると思う。

 だが、選挙遊説や就任演説で訴えていた「バイアメリカン、ハイヤーアメリカン(米国製品を買い、米国人を雇え)」というスタンスは本質的には今後も変わらないと思っていたほうがいいだろう。

 アメリカ自身がグローバルな交易、グローバルな人材の受け入れによって経済発展を遂げてきたことを否定し、トランプ大統領の中心的支持者であると言われる「中西部の白人」のために発言していくような、いわゆる保護主義的な路線は今後も継続していくのではないか。

 ただ、安全保障の面では、対シリア、対北朝鮮で極めて明確な戦略的対応をしていると思うし、国際秩序保持のため、そこは今後ともご尽力いただきたい。

――トランプ大統領が今のままのスタンスを推し進めていくと、世界経済はどのような景色になって行くと見ていますか。

 目先の懸念材料に反応して株価が一時的に下ブレすることなども当然あるだろうが、火力発電所のCO2排出規制を見直す大統領令に署名したり、石炭産業復活を支援するなど、今後いろいろな規制緩和やインフラ投資をしていくから、税制改革などの先行き不透明感は若干あるにせよ、短期的にはアメリカ経済は上向いていくだろう。

 それと同時に、今は世界中がカネあまり状態であり、期待先行で株価が上がっていく可能性が高い。このままいくと、今後4年の間にまたバブルが起こり、2008年(リーマンショック)が再現されるのではないか、という危機感を感じている。

――アメリカだけでなく、4月23日のフランス大統領選で極右政党のルペン候補が注目されてきたとおり、ヨーロッパでもグローバル化を否定し保護主義が台頭する動きが出てきたことに対して警戒感などはありますか。

 全体的に「保護主義に向かっている」というよりは、歴史上の大きな流れの中の澱みであると思っている。