アメリカのトランプ政権発足で、これまでの「常識」に大きな変化が起こり、日本の企業経営者たちも新たな発想を持つ必要が出てきている。今後をどう見据えて経営の舵取りをしていくべきか。ダイヤモンド・オンライン連載「今月の主筆」に登場した経営者に問う企画。今回はボストン コンサルティング グループシニア・パートナー&マネージング・ディレクターの御立尚資氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 山出暁子)

「トランプ大統領」は突然出てきたわけではない

御立尚資(みたち・たかし)/ボストン コンサルティング グループシニア・パートナー&マネージング・ディレクター。前日本代表。京都大学文学部卒、ハーバード大学経営学修士(MBA)取得。日本航空を経て現職。主な著書に『戦略「脳」を鍛える』『経営思考の「補助線」』『変化の時代、変わる力』『ビジネスゲームセオリー』(共著)がある。  Photo by Yoshihisa Wada

――アメリカでトランプ政権が誕生し、「保護主義」に対する警戒感が強まっています。

「トランプ政権の保護主義的な動き」という話をするときは、そこだけを見るのではなく、まず前提にあるものを捉えておくべきだ。「トランプ大統領」は突然出てきたわけではなく、大きな流れの中で出るべくして出てきている。

 大きな流れのひとつとして、「エレファントカーブ」といわれるグラフを見てみるといい。これは世界銀行のエコノミストだったミラノビック氏が発表したものだが、1988年から2008年までの間に、世界で誰が豊かになったかを示している。グローバリゼーションの進んだこの約20年間に、先進国の富裕層は豊かになっていて彼らの富は6割くらい増えている。新興国の中間層も豊かになった。ところが、先進国の中間層は所得が伸び悩み、ないしは下がっている。

 この要因は第3次産業革命による工業化が世界に広がったことだ。当初は、日本を含むG7の国々だけが工業化に成功して豊かになった。ところが教育の普及で工業化を支える人材が新興国でも続々と生まれ、資本のグローバル化の中で、世界が工業社会化したのだ。その中で、人件費が安い新興国に、先進国中間層の雇用がシフトしたため、彼らが世界的な富の増と分配から取り残されてしまった。

 そうした大きな流れの中から出てきたのが、「トランプ大統領」であり、「ブレグジット」という現象だと捉える必要がある。

 したがって「トランプ大統領による保護主義」を考えるのであれば、トランプ氏個人や政権の性格だけでなく、大きな潮流も見る必要がある。たまたま今のタイミングで出てきたが、ポピュリズムにつながる流れ自体はもっと長期かつ強力なものだ。

 極端なことを言うと、民主党の候補がクリントンではなくサンダースだったら、サンダースが勝ったかもしれない。要は「トランプをトランプたらしめたもの」に目を凝らさなければならないということだと思う。

 同様に今年の4月末から5月にかけて、フランスの選挙がどうなるか、その結果を受けて、今秋のドイツの選挙がどうなるか。これらも同じ大きな流れの中にあると認識して見ていくべきだ。

――トランプ大統領も「しばらくすれば、大統領らしくバランスを取るようになるのでは」という声もありました。

 そうなるとは思わない。というのも、こうした大きな流れのなかで、中間層を満足させないと中間選挙に勝てず、さらに4年後の再選もないからだ。

 トランプ大統領が中間層、特にラストベルトと呼ばれるところの人たちの支持を得るために主張していることは、経済学的には相当怪しい部分もある。ただ、ロジカルに正しいのかどうかではなく「感情に訴えるわかりやすさ」を重視して支持を得たのだから、その方向性が簡単に変化することは考えにくい。