ドイツの大手ソフトウェア企業、SAPの日本法人社長を務めるギャレット・イルグ氏は、自らのリーダーシップのスタイルを、“和洋折衷”と表現する。大学卒業後の最初の就職先が三菱電機、しかも工場勤務だっただけに、その言葉には重みがある。日米欧の名だたる企業で重職を歴任してきたダイバーシティの実践者に、世界に通用するリーダーシップの要諦を聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 麻生祐司)
――自身のリーダーシップのスタイルを一言で表現すると?
SAPジャパン株式会社 代表取締役社長。1961年、米国生まれ。ニューハンプシャー大学ウィットモア校で1983年ビジネス学士号取得後、84年に三菱電機に入社。ダウ・ジョーンズ、ロイター、日本BEAシステムズなどを経て、2005年、アドビシステムズの代表取締役社長に就任。08年9月15日より現職。
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端的に言えば、日本と西洋のカルチャーの良い部分を併せ持っているところだと自負している。そもそも、私のキャリアの原点は、最初の就職先の三菱電機にある。大学を出たばかりで、何でも自分で出来ると自信過剰になっていたこのアメリカ人に、三菱電機は自己を律する厳しさや他人に対する敬意といったディシプリン(discipline、規律・躾)を叩きこんでくれた。その後、私はメディアやソフトウェアに関心を抱き、欧米の企業に転身したが、日本企業で学んだことは私の人生の大きな糧であり、ベースとなっている。
――具体的に何を学んだというのか。
月並みな言い方になるが、最大の財産は、チームワークの重要性を学べたことだ。成功や喜びをひとりでエンジョイするのではなく、周囲とシェアすることの大切さを教えてもらった。私は常日頃、組織上の肩書きに囚われず誰にも分け隔てなく応対することを心掛けているが、そうした姿勢も三菱電機の工場勤務を通じて学んだものだ。
――SAPには、あなたのようなリーダーは多いのか。
ドイツと日本の企業は、文化的に似ているところはある。クオリティ向上への飽くなきこだわりは、その最たる例だろう。また、仕事を自分だけの仕事としては捉えず、後継にバトンタッチされていくものとして、つまり自分が仕事や会社の進化のプロセスに貢献しているという発想が強い。そのような組織では、必然的にチームワークが共通言語となる。
――ただ、チームワークの重視は、個人の競争力の向上と反比例しないか。
そうは思わない。そもそも私はチームワークを強調することで、慣れ合いの組織を目指しているわけではない。社員一人ひとりが「個」として自立し、リーダーシップを発揮しているうえでのチームワークのことを言っている。上意下達のみや馴れ合いの組織では、クリエイティビティは生まれない。チームワークと個々人のリーダーシップは共存できる、共存させなければならないというのが私の持論だ。