まず「はじめに」の以下の部分を読めば、それだけで笑う準備が出来てしまうはずだ。

 おそらく、一般に名前が知られている鳥類学者は、ジェームズ・ボンドくらいであろう。英国秘密情報部勤務に同姓同名がいるが、彼の名は実在の鳥類学者から命名されたのだ。隠密であるスパイに知名度で負けているというのは、実に由々しき事態である。スパイの名前が有名ということも、英国秘密情報部としては由々しき事態である。

 それ以降どんなに真面目なことが書かれていようと、文体だけで笑えてくる。まるで魔法にでもかけられてしまったかのようだ。

面白い研究者は一般人には
考えられない行動をする

 面白い研究者とは、研究の対象に没入するあまり一般人では考えられないような行動をとり、それがそのまま天然キャラへと転じるケースが多い。しかし我らが川上和人は、ひと味違う。一般人と同化したような目線で、計算し尽くされたかのようにボケ倒し、しかもほどよく抑制が利いている。つまりは、確信犯的常人離れだ。

 壮大なスケール感を等身大の目線で眺める、そのギャップにどうしようもないくらいのおかしさが生まれ、しかも同じページ内で2度、3度に渡り畳み掛けてくるからタチが悪い。ボケ方のパターンは少なくとも7種類くらいはあるだろうか。念のために今一度付け加えておくが、本書は正真正銘のサイエンス・ノンフィクションだ。

 絶海の無人島、過酷な調査の合間にベースキャンプで繰り広げられる、つかの間にひと時に見せる調査隊一行の人間模様など、まさに抱腹絶倒だ。

 常連の色黒調査隊長は、昼も夜もサングラスだ。海辺に用足しに行き大波をかぶり、波間に潜む人魚にメガネを献上したのだ。予備のメガネはサングラスしかなく、夜は暗い暗いと嘆いている。彼は植物学者だが、ヤシガニを見つけてテンションが上がり、実は動物学者になりたかったと無用なカミングアウトを始める。

 その隣では、小柄なカタツムリ研究者が海に鋭い視線を向けている。新種4種と引き換えに、やはり大事なメガネを山の神に奉納したため、眼を細めないとよく見えないらしい。視線の先の波打ち際では、水棲動物学者が記録映像を撮っている。落石対策のヘルメットを着用しているのは立派だが、首から下はトランクス1枚だ。彼は一体何を守っているのだろう。

 そうかと思えば、野生動物に回転運動が採用されなかった理由を一節まるごとぶち抜きで考え出したり、森永チョコボールのキョロちゃんの考察に8ページもの分量を割いたりする。