ヤクザ組織からカネを持ち逃げ
多額の現金を持つ路上生活者も

 あいりん地区には、カツトシさんのように、何らかの人に知られたくない事情でやって来た人が多い。彼らが自らの出自を頑なに明かさないのは、せめてもの尊厳を守りたいという切ない思いが背景にある。それは死後も同じ。せっかく恥ずかしい思いをしないように歯を食いしばって生きているのに、死後にうっかり尊厳を冒されるようなことは受け入れ難いのだ。

1泊500円のドヤ(簡易宿泊所)。昨年9月には、なんとドヤの部屋の中で2000万円もの現金を持った遺体が発見されたこともあった

 カツトシさんは、「仲間には内緒やけどな…」と言いながら、普段、貸しロッカーに入れているという現金30万円程が入った布製の巾着袋を見せてくれた。もし、どこかで行き倒れたときに、「葬式代として使ってもらうため」だそうだ。

 事実、警察関係者や地元の葬祭業者らによると、あいりん地区を根城とする路上生活者のなかには、「10万円から50万円程度」の現金を常に持っている者が時々いるという。やはり「葬式代」目的である。

 さて、2016年9月には簡易宿泊所で約2000万円の現金を持った遺体が発見されるという事件があった。

 こうした現金は、路上生活者が日雇い労働や空き缶拾いなどで働いて、あるいは相続で得たカネだけではないようだ。地元警察関係者は言う。

「絶縁ヤクザが組織からカネを持ち逃げ、それをそのまま後生大事に持っているケースもある。数年のヤクザ修行の後、やっと一人前になってシノギを任され、多額の現金を目にしてついそのまま持って逃げてしまった…というわけ。急に羽振りがよくなると目立ってしまう。だからカネは使えない。結果的に、持ち逃げしたカネが葬式代となる」

カツトシさんが死後に埋葬を希望する寺院の1つ、四天王寺。しかし路上死した人は、現金を隠し持っていたとしても、必ずしも本人の希望通りに埋葬してもらえるとは限らないのだという

 このようにあいりん地区で暮らす路上生活者がしばしば多額の現金を持っていることは、地元のワルの間では知られている。だから深夜、路上で寝ているとき襲撃対象となるのだ。警察に被害届を出さない理由は、「その出所を探られたくないカネなのでは」(警察関係者)という見方もある。

 たしかにカツトシさんも、「あんまり人には言えんカネやけどな」と言っていた。もしかすると、約30万円の現金も、何か“訳アリ”なのかもしれない。

「どんなカネでもカネには違いない。これだけあったら一心寺さんでも四天王寺さんでもや、わいを“仏さん”にしてくれるやろう?」

 欠けた歯をむき出しにして笑いながら、地元では「無縁仏」の納骨を受けつけているといわれている有名な寺院の名前を挙げた。だが、カツトシさんが亡くなった場合、事は本人が思うように進まないのが現実だ。