なぜ万年筆を
使うようになったのか?
私のプロフィールには「趣味:万年筆集め」と書いてある。特に珍しいものを持っているわけではないが、新しい番組に携わるとき景気付けにとか、自分なりに課題をクリアしたと思った時に自分へのご褒美とか、とにかく折々買い集めて、いま30本くらいある。
MCやキャスターの仕事が多かった頃は、台本に書き込みをしたりメモを取ることが多く、すべて万年筆で書いていた。フリップを指すときも万年筆を使うとかっこいい。衣装と色をあわせた軸の万年筆を使ったりして、ひそかに楽しんでいた。
新保信長
文藝春秋
220ページ
1300円(税別)
万年筆のなにが魅力ですかと聞かれれば、「アクセサリー類に興味がないので、万年筆がその代わりのようなものです」などと答えたものである。「万年筆には一本一本、個性があって、それが少しずつ時間をかけて手に馴染んでいくのがいいですね」などと、気の利いた風なことも言っていた。
そんなことが目に止まってか、「万年筆が似合う著名人を表彰する」という『Heart Line Project Award』を受賞したこともあるのだ!松山猛さんや室井滋さん、行定勲さんらとともにいただいたのである!芸能生活34年になるが、表彰していただいたのは後にも先にもこれっきりなのだ!
しかし、私の万年筆使いには、もう一つ、深い訳があったのだ。「字が汚い!」のである。なんというか、我ながら子供っぽくて頭が悪そうな字なのだ。ニュースを扱う生放送はとても緊張する仕事だった。局のアナウンサーの人たちと違い正統な訓練を経ていない私は、必死に背伸びして踏ん張っていた。そんな時に目に入るバカっぽい文字は、ただでさえ自信がない中、よけいに気を滅入らせる。