いやな思いは5回も我慢しない

 苦情が増える原因は、2つ考えられる。そのひとつは、苦情を言う人が増えることにある。

 たとえば、今まで苦情を実際に申し立てるのが10人に1人だったところ、最近10人に3人になったとしよう。この結果、苦情は3倍程度増えることになるだろう。

 もうひとつは、一人の人が苦情を言う頻度が増えることにある。この実態を知りたいと考え、『日本苦情白書』のアンケートでは「いやな思いを何回したら苦情を申し立てるか」を尋ねる項目を設けた。

人は、どれだけいやな思いをしたら苦情を言うのか<br />――モンスター・ペアレントの心理

 実際のところ、人はいやな思いをどれだけしたら、苦情を言うことになるのだろうか。従来、苦情に関する唯一の大規模調査とされてきた1984年の米国 ジョン・グッドマンの統計データでは、26回に1回とされてきた。ずいぶん我慢強いことである。長い間、このデータが標準とされてきたが、どうも実感とは かけ離れている。

 ところが、今回の『日本苦情白書』の調査では、平均して4.63回いやな思いをしたら、苦情を申し立てることがわかった。最も回答が多かったのは「3回」である(グラフ参照)。時代や国情の違いなどを考慮する必要があるにせよ、現在の日本は苦情を「我慢」する傾向にはないと考えたほうがよさそうだ。せいぜい4回までである。5回目になれば、苦情になると考えなければならない。苦情が増えている大きな原因は、ここにあると見て間違いないだろう。

我慢の幅は人によってかなり違う

 この設問の回答については、興味深い結果も出ている。1回いやな思いをしたら必ず苦情を言うという人が232人(6%)いた一方、「31回以上」と答えた人が80人(2.1%)だった。31回以上という人は、苦情をまったく言わないと同義であろう。よほど気長なのか、あるいはあまり人に期待しない、あきらめの境地に立っている人ということだろうか。

 いやな思いをしたら必ず苦情を言う人が6%といるという実態は、どう解釈したらいいだろうか。多いといえば多い気もするし、いや少ない、実はもっと多いのではないかと感じる人もいそうだ。その人の置かれた立場によって、データのとらえ方が異なってくるだろう。こうした違いについては、次ページ以降で分析していきたい。