私は、百貨店在籍時代に、首都圏と大阪の両方の店舗に勤務した経験がある。大阪の店に勤務していた時、あるプロ野球チームが負けると、必ずと言っていいほど電話してきて苦情を言う酔った客がいた。

 私が電話に出たところ、「おまえはどこの出身だ」と尋ねてくる。「東京です」と答えたところ、「何だ、徳川か」。そこで、すかさず「そういうお客様は豊臣さんですね」と返した。決してギスギスしたやり取りではなく、なんだか呼吸が合って親しくなってしまった。それ以来、件のチームが負けても苦情の電話が来ることはなかった。代わりに奥さんを連れて来店され、チケットを買ってくださったり、買い物をしてくださったりと、長い間お付き合いすることになった。

 埼玉で生まれ、首都圏で仕事をしてきた当時の私にとって、大阪の人々の会話に醸し出される阿吽の呼吸は、一種不思議なものだった。厳しい言葉も、大阪弁にくるまれて、特有のボケとツッコミで交わされると、そこはかとなくユーモラスな感じが漂う。だから、苦情・クレームに対する感じ方や対応法が東西で異なるのではないかと考えた。そこで、『日本苦情白書』のデータを東京と大阪の比較で分析してみると、いろいろなことがわかってきた。

苦情が増えている実感に大きな違いはない

「近年、自分の職場で苦情が増えていると思うか」との質問に対し、「思う」は東京では18.9%、大阪は19.2%と大きな違いはなかった(右図参照)。「思わない」「変わらない」の回答も同様だ。苦情・クレームの数の変化について、東京と大阪での感じ方にはあまり差がない結果と出た。ここでは大きな失敗があった。大阪と東京の苦情の数は7対1くらいで大阪のほうがはるかに多いのであるが、その土地の在住者はそれを普通と感じていたのだ。ただ、しつこさという点を見ると、関東のほうが何十倍もしつこいのが実態である。