常にコンマ単位でのシェア争いを繰り広げる“因縁のライバル同士”、アサヒビールとキリンビールが手を組むことになった。
両社は、この8月から首都圏で物流協業に乗り出す。東京都内での小口配送を共同化するほか、茨城・埼玉・長野・静岡でビールと飲料の空き瓶や空き樽などの空容器の回収を共同で行う。
これまでも、キリンは北海道での物流でサッポロと、缶蓋などの資材調達をサントリーと共同で行ってきた。アサヒは中部地区での物流でカゴメと組んできた。だが「営業担当としては、本来ならこうしてアサヒさんと同じ席にいることが少々複雑な気分」(岩佐英史・キリンビール副社長)という、“不倶戴天の敵”同士の2社が組むのは、史上初のことである。
通常、ビール製品は工場から10㌧車以上の大型トラックで卸に配送される。首都圏の一部では4㌧車以下の小型トラックで小売店に配送することも行われている。一方で、空容器の回収は、積むものがほとんどなくても、定時にトラック輸送を行っており、2社共に積載効率の悪さが問題となっていた。
今回の物流協業では、共通の得意先に対しての搬送をエリア毎に2社で分担しなおすことで、年間数億円のコストダウンが可能になると見込まれる。
そもそもこの話のきっかけは、昨年の夏から共に加盟する業界団体での物流部会で2社が、CO2削減策の一貫として検討を始めたことにある。だが、東日本大震災で、この協業は、当初意図したこと以上の“意味”を持つことになりそうだ。
というのも、今回の震災で、各社は商品の供給体制が工場の被災や計画停電などによる生産拠点のダウン以外でも、絶ちきられることを身をもって体験したからだ。
缶やペットボトルキャップの不足などに加え、配送トラックが手配できずに店頭に品物が届かない、ということが現実のものとなった。
本来の商品の競争力とは関係のないこうした分野でも、独自仕様の部品を使ったり、非効率でも自社で事業を行うことは、熾烈なシェア争いを繰り広げる酒類業界では長く続いてきた。だが、震災を機にこうした体制の効率化を図らないと、緊急時に供給体制が脅かされるという問題意識が業界の中では高まった。
最大のライバルが部分的とはいえ協業すれば当然、業界他社に影響を与える。「希望があれば、サントリー、サッポロなどの他メーカーの参加も拒まない」と本山和夫・アサヒグループホールディングス副社長は言う。
今後2社は、料飲店でのガスボンベの共同化など他分野での資材共同調達も検討している模様。協業が、物流以外にも広がっていくことになると、他社は座したままというわけにはいかなくなるだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)