Photo by Yoshiyuki Watanabe

「好きでやってきたので、つらいと思ったことは全くないです」

 実直な口ぶりでそう話すのは、北海道夕張郡で玉ねぎの新品種開発などを行う植物育種研究所代表の岡本大作。世界中の玉ねぎを交配させ、これまでにない付加価値を持つ品種を創り出してきた。付いたあだ名は「玉ねぎ博士」だ。

 3年前から販売開始した「さらさらゴールド」は、がんや動脈硬化などの予防効果が期待されるケルセチン(ポリフェノールの一種)が、他の品種に比べて2~5倍も含まれており、通常の2倍という価格にもかかわらず、全国の百貨店やスーパーなどで多くのファンを獲得している。

 岡本は1991年に北海道大学農学部農芸化学科を卒業後、デンマークの国立植物土壌科学研究所に政府給費生として留学し、遺伝子組み換えによる品種改良などを学んだ。帰国後は大手種苗メーカーに勤務し、野菜の品種改良の研究などを行う日々。

 しかし、流通・販売側の都合による安定供給のための品種改良の在り方に疑問を持つようになる。

「消費者目線で、今までにない野菜を開発したい」との思いは日増しに高まり、入社から8年後の2000年、たった一人で起業した。

 目を付けたのは玉ねぎだ。理由は二つあった。

 一つ目は市場の大きさである。玉ねぎは、国内で大根やキャベツと並んで多く消費されている生鮮野菜。他社と差別化した商品を開発すればビジネスチャンスが広がると考えた。

 二つ目は品種改良の難しさである。玉ねぎは、1年目に咲いた花から種を採り、その種をまいて1年後に収穫するので、品種改良の結果を確認するまでに約2年を要する。「玉ねぎの品種改良には時間とコストがかかるので、大手種苗会社がほとんど手掛けていないブルーオーシャンだった」。