「AIは脅威」は間違い、人事部で広がるデータ活用人事領域でのAI活用を研究する岩本教授

 実際、少人数のデータでも分析が進んだ事例がある。慶應義塾大学ビジネス・スクールの岩本隆・特任教授は、カシオ計算機と協力した実験で、ハイパフォーマー人材30名のデータから、優秀者の多くが持ち合わせている特性を参考値として使えるレベルで見出すことに成功したという。こうして人事にAIを取り入れれば、やがて「人事の仕事は『戦略的な育成』しか残らなくなるかもしれない」と岩本氏は語る。

 人事の専門媒体『日本の人事部』の長谷波慶彦編集長も、AIの活用により、人事の仕事はむしろ機械ではフォローできないところに特化してゆくと予測する。「エスノグラフィ(行動観察)という手法を用いるなどして、社員とじっくり向き合いコミュニケーションをとるという、泥臭いところが人事部の仕事になるのではないか」。

 そうなれば、営業やマーケティングなど各部署(ライン)のマネジャーが労務管理を行うことができるようになり、人事部は経営者に組織強化や人事管理のノウハウ(現在の人事の仕事)を教え、社員のマネジメントを補佐する立場に変わる。これからの人事部は戦略的な人材育成を構想するなど、専門性を磨くことに存在意義を見出すことになるだろう。

 まだ人事部にAIを活用することで「企業業績が向上した」など具体的な成果が報告されているケースはないが、AIによって人事パーソンの事務作業の負担を減らすことで、経営に資する戦略的な提案を行う時間が生まれれば、業績によい影響が出ることも想像に難くない。それを実現するために、AIやHRテクノロジーについて人事部の現場担当者はもちろん、経営者も興味を持ち、動き始めている。

「AI人事部」特集では、第2回で「K(勘)K(経験)D(度胸)」に頼らない採用や退職者予測技術の開発背景について、第3回「AIを導入した人事部」では新卒採用の最前線やAI活用のための組織づくりの苦労と経営者の期待について扱う予定だ。