人事のビッグデータともいえる「ピープルアナリティクス」が、今後の人事のあり方を変える新機軸となっていく。――連載の第1回では、これまで「勘や経験」に頼りがちであった人事の意思決定に、ビッグデータやAIの考え方が新たな流れを生み出しつつある。このような話を日系企業の実態調査の結果を踏まえながら解説してきた。
本連載ではこのあと3回にわたり、この「ピープルアナリティクス」に関して日本国内でも先んじて研究・調査・取組みを行ってきた産学の有識者にインタビューを行う。彼らから見た日系企業の実情と今後の展望についての生の声を聞いていきたいと思う。初回となる本稿では、人事のテクノロジー・アナリティクスに関するビジネスモデルの研究に国内でもいち早く取組み、現在では企業に対するアドバイスも手掛ける慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授の岩本隆氏に、日本企業における「ピープルアナリティクス」の現状や今後の展望について話をうかがった。
人事データの活用
日本企業はまだ試験段階
北崎 ピープルアナリティクスが、大企業を中心に注目を集めるようになっていると感じますが、最近の動向についてはどのような印象をお持ちですか。
岩本 そうですね。データの分析というよりも、まだデータの見える化に取り組んでいる段階の会社が実際としては圧倒的に多い印象があります。一方で、アナリティクスの依頼が私のような大学の人間には結構来ています。このことは、ピープルアナリティクスがまだビジネスとして成熟しきれていないことを示しているという印象を持っています。
ただ関心度という観点で言えば、ここ数年、特に昨年の後半あたりからものすごい勢いで上がってきていると感じています。日本ではまだ馴染みがないかもしれませんが、「オンボーディング」と呼ばれる採用領域に対するニーズが高まってくるだろうと思っています。
さらには人材育成の投資効果など、人事に関わらず様々な領域でデータ分析に関する関心は根強くありますが、人材育成の分野では、有効な分析を行えている企業は、ほんの一握りという印象を受けています。タレントマネジメントシステムでも、ラーニングによってどのようなコンピテンシーが上がるのか、というところまでサポートできていませんが、今後ニーズは高まっていくでしょう。
ただ一方で、実際の企業の取組みとしては、新卒採用などのように、具体的な領域を絞り込んだ形で、試行的に分析を行っているケースが多いと感じています。
北崎 例えば欧米の先進企業などでは、アナリティクス専門チームが存在していて、人事の様々な領域に対して横断的な取組みを行う企業もありますが、今の日本企業はどちらかというと優先的に取り組む領域を絞って「つまみ食い」の対応をするという、まだ見極めの段階にいるということですね。