世の中には一見すると、ごく当たり前のことを言っているようで、でもよく考えてみると実はおかしいということがある。これは「ヒューリスティック」と呼ばれる、ある種の“勘違い”から生じているものなのだが、この勘違いが実際には商売に利用されていることが多い。

 特に保険の分野では、この「ヒューリスティック」がマーケティングに巧みに使われている。今回は医療保険の分野に限ってこの勘違いを考えてみたいと思う。

“高まるリスク”に
保険は向いていない

 民間の保険会社の宣伝文句に、「高まる病気のリスクに保険で備えましょう」というフレーズがよく出てくる。多くの人は、このフレーズを何の疑いもなく、ごく当たり前のことと思い医療保険に入るようだ。しかし、よく考えるとこのフレーズは極めて大きな矛盾をはらんでいることが分かる。なぜならそもそも“高まるリスク”に保険は向いていないからだ。

 保険の本質は、(1)めったに起こらないこと、しかし、(2)もし起きたらとても自分の蓄えでは賄えないこと、そして、(3)それがいつ起きるか分からないこと、この三つに備えるのがその役割である。