金融庁が問題視する
外貨建て保険はどこがダメか
外貨建ての保険は、目下、銀行などの金融機関が販売に力を入れている商品だ。一方、前々回の本連載「金融庁がダメ出しする運用商品ワースト3」(2016年9月21日掲載)でも取り上げた通り、顧客の側にとって問題の多い商品だ。
金融庁が9月に公表した「金融レポート」(平成27事務年度)では、貯蓄性保険商品について、商品特性を分析して、「比較的単純な商品を個々に提供することで、より低コストで同じ経済効果を得られる選択肢があるにもかかわらず、顧客に対し、そうした情報提供を行わないまま、商品構成が複雑な商品を提供し、高い手数料を徴収するといった行為は、顧客のニーズよりも、販売・製造者側の論理で金融サービスを提供しているのではないかとの見方が出来る。」(p67)と述べている。
この分析の意味を分かりやすく言い換えると、ポイントは2点だ。
まず、より安い手数料コストで同じ効果の商品が提供できるのだから、「外貨建て保険は、明らかに損な商品だ」というのが第1点目のポイントであり、そうであるにもかかわらず、明らかにより良い選択肢を隠して高い手数料の「外貨建て保険を売る金融機関は悪い」(「顧客のニーズよりも、販売・製造者側の論理で金融サービスを提供」するとは「悪い商売をする」の言い換えだと読んで差し支えなかろう)。
結論としては、外貨建て保険を契約しないでください、ということなのだが、多くの人にとって、その意思決定が不可能だからこそ、外貨建て保険はよく売れている。それでは、なぜそれが不可能なのかというと、金融機関のセールス担当者が繰り出す「ご提案」や「ご説明」を素人が批判し却下することが難しいからだ。
一方金融機関側では、今後、手数料開示の強化などが見込まれて売りにくくなりそうでもあり、「外貨建て保険を、今のうちにたくさん売っておきたい」と思う理由がある。
では、典型的には、外貨建て保険は、どのように売られるのだろうか。筆者の手元に、銀行の支店などでよく読まれている『近代セールス』(近代セールス社)という雑誌の10月15日号があり、たまたま「いま実践したい外貨建て保険の提案ノウハウ」という特集を組んでいる。
以下、この特集を参考に、金融庁認定済みのダメ商品がどのような着眼点で売られているのかを見てみよう。
「近代セールス」誌特集にみる
顧客パターン別のセールストーク
はじめに断っておくが、『近代セールス』誌は、本特集で顧客を騙せとは言っていない。「『顧客本位』のビジネスモデルが求められる中」、「手数料ありきの自行庫本位の提案はNG」であると、特集の冒頭ではっきり述べている。また、特集の末尾の記事にも、「ちなみに、通貨分散が最大のニーズである場合は、欧米諸国の国債を直接買う方法や投資信託、ETFなどを買う方法など、お客様のコスト負担を大きく減らす方法があることも知っておくべきである」という文章がある。特集の内容には、最小限の倫理的ヘッジが掛かっている。