ちょっと休憩したいとき、外出先でパソコンやプリンタが急に必要となったとき……。ネットカフェは便利な存在だ。終電を逃してタクシー代が惜しいときの仮眠場所としても、重宝されている。
コミックや雑誌が自由に読める点には出版社や書店から、安価に宿泊できるという点にはホテルなどから反発があることは、想像に難くない。また以前は、簡単に匿名でインターネットが使用できたため、ネット犯罪の温床として槍玉に上がることもあった。
不特定多数の人間が安価に休憩・宿泊でき、ネットも利用できること、また完全ではないものの個室が用意されておりプライバシーが保たれること。これらお客にとってのメリットも、見方を変えれば危険と隣り合わせであり、風紀を保つ側、犯罪を取り締まる側にとっては「目の上のたんこぶ」だ。
近年、各自治体や警察は規制を強化しつつある。たとえば東京都では、2010年、ネットカフェを念頭におき、入店時の身分証明書の提示・確認義務を定めた「インターネット端末利用営業の規制に関する条例」を施行した。そのためネットカフェ側には、パソコンを撤去してマンガ喫茶に業態転換を図ったり、個室の撤去、あるいは事業そのものから撤退するという動きも見られた。
規制強化の動きは止まらない。6月22日の東京新聞朝刊の報道によると、警察庁がこの4月、ネットカフェの個室営業は「風営法の許可がない場合は違法」として、全国の警察本部に指導を強めるよう指示していたというのだ。
ならば、ネットカフェが「風営法の許可」を受ければ済むのでは?確かにそうすれば、個室営業は従来通り可能となる。だが風俗営業の許可店になるということは、原則として24時までの営業しか認められないということでもある。24時間営業にこだわるなら、個室を撤去するか、24時以降は使用不可としなければならない。
かつて、「ダンス」への認識が戦後混乱期のままであったため、1998年まで社交ダンスの教室まで規制対象としていた風営法。「時代の変化への対応が遅い」「適用が恣意的である」といった批判も多い。もちろん、ある程度の歓楽性や享楽性のコントロールや青少年の保護が本来の目的のため、それに対して異を唱えるつもりはない。
件の規制強化も、ネットカフェの個室が未成年者へのいかがわしい行為の温床になっていることを警戒してのことという。さらに警察庁の調査によると、規制条例で本人確認を義務化している東京都でも、確認が行なわれている店舗は87.1%に過ぎないというから問題である。
しかし逆を言えば、身分証明書の提示・確認義務をより徹底し、かつ未成年者の入店を禁止すれば済むことではないか。風営法を持ち出す前に、そうした「指導を強める」ことによって対応はできないのだろうか。それとも、事態は風営法による規制でネットカフェの有り方自体を変えねばならぬほど、切迫しているというのだろうか。
(工藤 渉/5時から作家塾(R))